まさか、またか

 2006年、52歳で戦後最年少の首相となった。美しい国づくり。戦後レジーム(体制)からの脱却。病気のため1年でその座を降りたが、12年に再登板する。アベノミクス。3本の矢。安倍1強。忖度(そんたく)。7年8カ月の在任は歴代最長…▲ざっと振り返っても、その人の軌跡を表す言葉が次から次に思い浮かぶ。「長期政権の緩み」という言葉もあった。不祥事が続々と明るみに出たが、国政選挙で連勝しては批判をかわした▲最年少、歴代最長、そして「最強」でもあったろうか。安倍晋三元首相が、奈良市で街頭演説中に銃撃されて亡くなった。41歳の男が現行犯逮捕され、安倍氏に「不満があった」などと供述している▲参院選の投開票の直前に、政策や主張を人々に訴える場面で、銃撃で口を封じ、命を奪う。選挙とは民主主義の根っこ、演説とは言論の場であり、暴力で封じることは決して許されない▲その「あってはならないこと」が現実に起きた。衝撃とともに、かつて長崎市長2人に銃口が向けられた事件を想起する人も多いだろう。32年前、本島等さんが男に短銃で撃たれ、重傷を負った。15年前、伊藤一長さんが市長選の期間中、凶弾に倒れた▲「まさか」と息をのんだ日であり、「またか」と怒り、歯がみした日でもある。誰もがこの日を忘れまい。(徹)


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