故瀬戸内寂聴さんドキュメンタリー映画「99年生きて思うこと」福井で上映 “こいびと”中村裕監督が明かす撮影秘話

ドキュメンタリー映画「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」の一場面

 2021年11月に亡くなった作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(享年99)の在りし日の姿を収めたドキュメンタリー映画「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」が7月9日、福井県福井市の福井メトロ劇場で上映が始まった。監督は公私にわたり近しい関係にあった映像ディレクター中村裕さん(62)。2人の間柄だからこそ捉えられた寂聴さんのありのままの姿や言葉があふれている。中村監督がオンラインで福井新聞の取材に応じ、撮影秘話を語った。

 中村監督は寂聴さんのことを「先生」、寂聴さんは中村監督を「ゆうさん」と呼び合う仲。映像の多くは“先生”の自宅「寂庵」での日常風景。17年間にわたってカメラを向け、「ゆうに500時間を超すのでは」(中村監督)という中から映像を厳選した。

⇒瀬戸内寂聴さんは旧敦賀女子短期大学2代目学長

 リラックスした様子の寂聴さんと食卓を囲み、プライベートなことなどを忌憚(きたん)なく話し合う様子がつづられている。寂聴さんは大きな口を開けて笑い転げ、あるときは失敗を悔やんで「エーン」と子どものように声を上げて泣き、ゆうさんに励まされる。「濃いやりとりをする付き合い。“濃人(こいびと)”って言えるのかな」。中村監督は2人の関係をこう表現する。

 悩みを抱える人に優しく寄り添い、法話では分かりやすくユーモラスに人の道を説き多くの人に愛された寂聴さん。映画では、少しずつ老いてゆく姿や苦悩の様子も隠さず見せる。「弱みを見せないことを美学としているような人だったから。でも、『こんな映像使って』って、怒っているかもしれませんね」と笑う。

 中村監督に全幅の信頼を寄せ、寂聴さんが自分の死後に映像を公表するよう諭す場面がある。それを拒む中村監督とのやりとりも興味深い。生きていたなら100歳の誕生日を迎えるはずだった5月、全国公開した。

 寂聴さんの訃報後も、テレビのドキュメンタリー番組や映画製作と忙しい日が続いた中村監督。「先生が元気で笑っている映像を見続けていて、いなくなった実感がない」。亡くなる前も毎日のように電話でやりとりしていたといい「いまだに『あれ、今日はまだ電話かかってきていないな』って思う」のだとか。

 著書や法話の記録を通して「先生の言葉の多くは世に残る」と中村監督。「姿は見えなくなっても、いなくなってはいない。先生がさらけだしてくれた言葉を、多くの人に知ってもらえるよう形にするのが私の役目」と言葉を結んだ。

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