近うて遠きもの

 清少納言は枕草子で「近うて遠きもの」を挙げている。親しく思わない親類との仲、曲がりくねったつづら折りの道、大みそかと元日の間…。どれもうなずける▲今時分の「近うて遠きもの」は? もし一般の人に募ったら「脱コロナの日」は上位に顔を出すだろう。コロナ禍はもう2年半ほど続くが、なおも終わりが見えてこない▲昨夏からの「第5波」は感染者数が多くても重症化しにくく、「ワクチン効果の表れ」とされた。今年に入って押し寄せた「第6波」は、新種のオミクロン株で感染がにわかに広がり、自宅で療養する人が多い時で全国50万人を超えた▲それでも社会活動はじわじわと“平時”に軸足を移し、春の大型連休は3年ぶりに行動制限がなかった。ずいぶん遠くにあった「以前の通り、いつも通り」がようやく近づいている。そう肌で感じる人も多いだろう▲参院選が終わった途端、政府分科会の尾身茂会長が「第7波入り」を宣言し、その途端、県内できのう過去最多の849人の感染者が確認された。県は感染の広がりを示すレベルを引き上げる方向らしい▲収束はまだ「遠きもの」だと改めて知る。生活の「いつも通り」までもが寄せては返す波と同じく、また遠ざかることのないように。感染対策の「いつも通り」を念入りに積み重ねたい。(徹)

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