【高校野球神奈川大会】亡き母に捧ぐ走者一掃の三塁打 藤沢西・山口「母が喜ぶ報告できる」

【小田原―藤沢西】4回表藤沢西2死満塁。山口が走者一掃の三塁打を放つ=サンスタ

◆藤沢西8-1小田原(7回コールド)
 四回2死満塁。藤沢西の山口の打球は追い風を受け、ぐんぐんと右翼フェンス手前へ伸びた。走者一掃の先制三塁打で快勝を呼び込んだ3年生が、塁上で右手を上げる。「助けてくれたのかな。母が喜ぶ報告ができる」。伊勢原の上空を舞った風に、今は亡き最愛の人を思った。

 3歳上の兄を追い、野球を始めたのは小学1年生のとき。練習や試合のために車で送り迎えしてくれたり、スコアラーとしてチームを手伝ってくれたり。いつもそばには母尚子さんがいた。

 自宅で尚子さんが倒れたのは18年末。悪性の脳腫瘍で、5年生存率が約10%とされる「膠芽腫(こうがしゅ)」と診断された。手術を2度受けたが、思うように体を動かせなくなった。

 山口が昨夏の神奈川大会3回戦で敗れた後、52歳で亡くなった。「病気のことは詳しく知らなかったが悲しかった」。生前欠かさなかった試合の報告は今も続けている。

 母は自分を気にかけてもらうより「チームのことを優先して」と残していたという。最後の夏の初戦も、この言葉を胸にプレーした。リードオフマンとして第1打席は二塁打で突破口を開き、六回には追加点に結び付く送りバントを決めた。

 三塁側スタンドには、尚子さんの写真を手に応援する父裕之さん(52)と、2019年の神奈川大会で準優勝した日大藤沢メンバーの兄海人さん(20)の姿も。その活躍を家族全員で見守った。

 目標は、母の命日である7月20日に予定されている5回戦へ進出すること。その日は両親の結婚記念日であり、3年前の決勝で兄が大敗を喫した相手、東海大相模と対戦する可能性もある日だ。「いろいろなものが巡っている大会。絶対に勝ち上がりたい」。次もまたうれしい報告がきっとできると信じている。

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