「通貨の王様」米ドルのおさえておきたいポイント、有事で為替はどう動くか?

「間違いだらけのFXトレード」から卒業するためには、主だった通貨の特徴について正しく理解することも重要だと思います。

そこで、それぞれの通貨の特徴について説明したいと思います。最初はもちろん世界で最も多く取引されている通貨、その意味では「通貨の王様」という存在、基軸通貨(キー・カレンシー)の米ドルです。


通貨の王様・米ドル

日本の投資家がFXを始める時、やはり馴染みのある米ドル/円からと考える人は多いでしょう。たとえば、まだFXをやったことのない人に、「今のユーロ/円はいくらくらいだと思いますか?」と聞いても近い数字を答えられる人は多くなさそうですが、米ドル/円なら結構近い回答が出てきそうですよね。

というのも、米ドル/円は朝昼夜のニュースでも取り上げられることが多いので、FXとは無関係の人にも目に入る機会が多いということがあると思います。こんなふうに頻繁にニュースで為替レートを紹介するというのは日本独特の慣習のようですが。

ただ、そういったこともあって、FXが始まった時、日本の投資家は為替レートに慣れがあり、とくに米ドル/円には馴染みがあったので、他の国よりFXを受け入れやすかったともいわれます。

そんな米ドルの最大の特徴は、基軸通貨、決済通貨として、世界で最も取引が多いということです。その意味をまざまざと見せつけたのが、2020年3月、「コロナ・ショック」と呼ばれた局面でした。コロナ感染リスクの急拡大を懸念し、世界的に株価が大暴落となる中、米ドル/円も一旦は暴落、大きく米ドル安・円高へ動きました。ところが、その後一転して米ドル買いが殺到し、米ドル/円も急反騰となったのです(図表1参照)。

この米ドル買い殺到は、リスクを回避するためには、まずは取引量の最も多い基軸通貨の米ドル確保が最優先になった結果と考えられました。リスク回避の大原則は、「Cash is King(現金こそが王様)」とされますが、これが為替市場においては「基軸通貨の米ドルこそが王様」であることが、未曽有のリスク回避局面「コロナ・ショック」で証明されるところとなったわけです。

有事の米ドル買い

為替市場では、かつて「有事の米ドル買い」という言葉がありました。有事……まさにリスクに遭遇した局面では米ドル買いが基本とされていたのでした。それは世界経済における米経済の相対的な優位性が低下する中で通用しなくなったとの見方もありましたが、「コロナ・ショック」といった究極の「有事」では、「有事の米ドル買い」の健在が再確認されたと言えるでしょう。

ところで、この「コロナ・ショック」では、既に述べてきたように米ドル高・円安へ大きく動くところとなりましたが、ほかのリスク回避局面ではむしろ米ドル安・円高に動くことも多くなっていました。ある意味では、「有事の米ドル買い」を超えた「有事の円買い」といった構図が目立つようになっていたのです。

これについて私は、円の低金利通貨の影響によるものではないかと考えてきました。代表的な低金利通貨の円は、金利差の観点からは売られる傾向が強いと言えます。実際に図表2を見ると、円は「売り」が「買い」より時間帯が圧倒的に多く、さらに「売り」の最大値は「買い」の倍にも達していたことがわかるでしょう。

リスクとは、基本的に取引していること、つまりポジションを持っていることですから、そのリスクの回避は取引、ポジションの縮小となります。低金利通貨の円は「売り」のポジションとなっていることが多いため、リスク回避のポジション縮小は円の買い戻しになりやすかった、それがリスク回避、「有事」で円買いとなってきた大きな背景だったのではないでしょうか。

ただし、そんな「有事の米ドル買い」に勝る「有事の円買い」といった状況が、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻といった国際秩序を揺るがすような事態が起こった頃から、変化が出てきました。「ウクライナ危機」などを材料にリスク資産が売られ、代表的なリスク資産である株式市場も急落する場面が増えましたが、それは「有事の円買い」をもたらすことにはならなくなったのです。

これは、「ウクライナ危機」によって、米国依存の高い日本の安全保障リスクへの懸念が高まったこと、またエネルギー価格の高騰により、「資源小国・日本」への不安が広がったことなどの影響が考えられました。

その一方で、「有事の米ドル買い」は、改めて際立つようになりました。一際鮮明になった「有事の米ドル買い」、それこそまさに、「通貨の王様」米ドルの押さえておきたい第一の特徴と言えるのではないでしょうか。

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