<書評>『閉じつつ開く』 島々歩いた気付き、形に

 以前、知人の住む市営馬場団地を訪ねて驚いた。団地に対して持っていた単調なイメージがなかったのだ。わが家らしい設えを楽しめる玄関前のポーチなどに居心地の良さを感じ、住んでみたいと思った。

 その設計を手がけられたのが伊志嶺敏子さんだ。1978年に郷里宮古で1級建築士事務所を立ち上げ、以来第一線で活躍してこられた。

 本書は著者が新聞等で執筆したエッセーと講演内容が収録されている。旅の好きな彼女は、進学で島を離れ、帰郷してからも、フィールドワークを兼ねてさまざまな土地に足を運ぶ。さらに宮古の島じゅうを歩き回り、得た気付きを、かたちにしてきた。都会的な感覚で設計した住宅が施主に受け入れられず、竹富島を旅したとき集落の景観を目にして疑問が鮮やかに解けたこと。新しい団地の基本構想づくりで住民の中学生たちに質問すると「馬場団地みたいなのがいい」と言われうれしかったこと。「緩衝帯」の大切さ。共有する「場」を設けること。

 インプットとアウトプットの繰り返しは、著者のテーマ「閉じつつ開く」にもつながる。高温多湿で台風も多い宮古島で、人々の住まいをつくるために心を砕きながら、足取りや思考はその文体のように軽やかだ。

 本書は「八重山手帳」や今年創刊30年を迎えた「月刊やいま」など、地域に根ざした出版で知られる南山舎の上江洲儀正社長と著者との出会いによって生まれたという。宮古と八重山が連なる先島諸島に花が咲くイメージで企画された、新シリーズ「咲島BOOKS」の第1弾である。

 咲島のロゴが浮かぶ、擦りガラスのような半透明の帯に包まれた表紙がまたいい。青空と水平線と砂浜、手前には白い花ブロック。著者が好んで使う、風を取り入れるための沖縄らしい工夫が、装丁にも凝らされている。開くと私も島の風を感じた。

 島の少年少女たち、若い世代が、どうかこの本を読んで、伸びやかな目で世界を見てきてほしい。そしていつか、よりよく暮らすこと生きることに思いを巡らすとき、本書は素晴らしいヒントを与えてくれるはずだ。

 (根間郁乃・地方公務員)
 いしみね・としこ 1948年宮古島市生まれ、建築士。主な設計に平良市営馬場団地、県営平良団地など。地域住宅計画奨励賞など受賞。

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