<社説>土地規制法基本方針 全面施行は認められない

 安全保障上、重要な土地・建物の利用を規制する「土地利用規制法」の政府基本方針原案が明らかになった。 施設の機能を阻害するとして勧告・命令の対象となる機能阻害行為について、航空機の離着陸やレーダー運用の妨げとなる工作物の設置など7類型を例示した

 例示した以外にも「勧告・命令の対象となることはある」とし、政府が個別具体的な事情に応じて判断すると記している。何が規制対象となるのか国民が明確に把握できないまま次々と対象が拡大される恐れがある。恣意(しい)的に運用される法律の全面施行は認められない。

 土地利用規制法は、政府が「特別注視区域」や「注視区域」に指定した基地を含む重要施設周辺で、土地利用実態を調査し「妨害行為」への中止勧告や命令が可能となる。

 「注視区域」や「特別注視区域」は基地などの周辺1キロ圏内が対象となる。例えば、8割の土地が基地に収用されている嘉手納町は全域が規制対象になり得る。米軍普天間飛行場が市の中央にある宜野湾市は大部分が1キロ圏内。宮古島や与那国島も含まれる。

 そもそも、これまでに重要な施設への機能阻害行為が国内で確認された事例はないと政府は認めている。立法の必要性を裏付ける根拠がないのだ。しかも法案の審議過程で施設の機能を阻害する行為を国会で例示しないまま成立した。国会のチェック機能が働かないまま政府に「白紙委任」した。立法府の責任は重い。

 土地規制法は国会審議過程で、情報収集に公安調査庁や内閣情報調査室などの情報機関が協力することや、個人の思想信条を調べることも条文上は「排除されていない」という政府の認識も示された。実際に今回の原案は、関係する行政機関に利用者や関係者の個人情報を求めることができるとなっている。

 政府は、土地利用と関係のない事項を調べることは想定していないと説明したが、条文上の調査権限や罰則行為があいまいでは、政府が恣意的に運用する恐れがある。「安全保障」を理由に、思想信条、集会、表現の自由や財産権を侵害し憲法に抵触する恐れがある。実際に昨年の衆院内閣委員会で、自民党の杉田水脈氏が名護市の辺野古新基地建設工事に対する反対運動を名指しした上で、法案の適用拡大を求めた。基地に反対する住民を排除することがあってはならない。

 安倍政権下で、国にとって不都合な情報を隠し国民の知る権利を侵す特定秘密保護法が成立した。対象を大幅に拡大した通信傍受法、実行前の恐れをもって処罰できる共謀罪法も成立した。

 そして今回、基地周辺住民の調査を可能にする土地規制法が9月中に基本方針を閣議決定した後、全面施行する。自由な言論活動を規制し、国策に反する異論を排除しようとする動きを深く憂慮する。

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