親の進学期待と現状の板挟み…高校時代に不登校、ひきこもりになった福井県出身の37歳男性が本出版

ひきこもりの社会構造に迫る学術書を出版した伊藤康貴さん=長崎県内

 福井県永平寺町出身で長崎県立大学講師の伊藤康貴さん(37)=社会学=が、自らのひきこもり経験を基にした学術書「『ひきこもり当事者』の社会学」(晃洋書房)を発刊した。「個人の問題」とされやすいひきこもりの社会的要因を分析し、「当事者への理解が広がり、居場所づくりなどの対策が進む一助になれば」と話している。

 伊藤さんは県立高校進学後に不登校となり、2年修了時に退学。他県の高校に編入するまで約3年間、ひきこもりを経験した。大学進学や自立を求める「親からの期待」と、達成できない現状の板挟みに苦しんだといい、「多くの当事者が同様の悩みを抱えている」と話す。

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 著書では、ひきこもりに至る過程や意識の変化を「読者に追体験してもらう」試みとして、自らの経験を詳しく記した。調査研究を長年続ける関西の当事者グループについても紹介。カウンセリングや就労サポートが中心の従来型の支援では解決に結びつかないケースもあると指摘し、さまざまな生き方があることを知る場として当事者交流の重要性に触れている。

 伊藤さんによると、近年はひきこもりの長期化や高齢化が社会課題となっている。「若い世代だけの現象ではない。(著作が)当事者や支援者らの参考になれば」と話す。A5判320ページ、税込み3080円。書店やインターネットで注文できる。

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