赤テントに懸ける(2)富田ひとみさん 元はトランポリン選手

空中ブランコでフライヤーを務める富田さん。思わぬ壁にぶつかりながらも、それを乗り越えて舞台に立っている

 サーカスの花形とされる空中ブランコ。木下サーカスの3人の女性フライヤー(飛び手)のうち最も若い富田ひとみさん(28)は、もともとトランポリン競技で国内トップ選手の一人だった。

 東京都出身で小学1年から競技に打ち込み、日本体育大1年の時には世界選手権にも出場した。オリンピックを目指していたが、4年の時に世界選手権出場を懸けた国内の選考会で代表入りできず、現役生活に区切りを付ける決意をした。

 トランポリンの強豪高校で指導者になることも考えたが、友人から「サーカスっていう道もあるよ」と勧められたのが転機となった。

 幼い頃からおとなしい性格で、トランポリンが自分を表現できる唯一の場だった。演技の内容は違っても、多くの人たちの前で自らが磨き抜いた技を見せるサーカスにも魅力を感じた。「指導者ならもっと後でもできる」と思い切って方向転換した。

 入団2年目の2018年、空中ブランコの出演候補者に選ばれた。「トランポリンで養った空中感覚を生かせる」と思っていたが、甘かった。

 上空に跳び上がるのに下半身の筋力を多く使うトランポリンに対し、バーを持って飛ぶ空中ブランコは腕力が必要だ。富田さんは筋力が不足していた上、空中で宙返りを入れるなど独自の技を完成させようとして失敗を重ねていた。

 「今思えばプライドが邪魔していた」。通常は1年半ほどでデビューできるはずが、それを過ぎてもめどが立たない。「基本に戻った方がいい」という先輩の助言に従った。2年余りの練習を経て、ようやくステージに立つことができた。

 本番を重ねるうち、空中ブランコが個人技というよりチームワークで成り立っていると気付いた。キャッチャー(受け手)はフライヤーの調子を見て腕を出すタイミングや伸ばし方を変えている。キャッチに成功しても、元のバーに戻る際、ジャンプ台にいる仲間がバーを投げ出すタイミングを間違えると、つかむことができない。

 「時間はかかったけど、今はこの演技の奥深さにやりがいを感じている」と富田さん。「もちろん、自分にしかできない技も諦めてませんけどね」と笑って言う。

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