リアルの魅力

 気になる新刊があると、発売日の前日の夕方に書店に電話してしまうのだ、という。ひょっとしたら何かの間違いで、もう搬入や陳列が始まっていないか-と▲でも、それほど楽しみにしていた本なのに、彼はいきなり読み始めたりしない。帯を丁寧に外し、表紙をじっくり眺めると、表紙と本文の間の「見返し」の色や題字にも目を凝らし、ブックデザイナーが込めた思いに想像を巡らせる▲「小説は最後の50ページとか、できたら100ページは区切らず読みたいから空き時間を考え、体調も整えて」「誰よりも面白くこの本を読んでやるんだと思いながら」「単行本で読んだ本を文庫でも買うんです。文字の組み方が変わるだけで印象がすごく変わる」…独特の読書術や読書論が楽しい▲やわらかな大阪弁で話すのはお笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さん。神奈川県を中心に店舗展開する書店「有隣堂」のユーチューブチャンネルで動画が公開されている▲僕は「紙」の本がすごく好きで、本屋さんが好きで…。電子書籍の普及やネット書店の台頭で苦境に立たされ続ける“リアル勢”への愛が熱く語られる▲夏休み。すてきな一冊との出会いが待っているといい。読書が趣味の人もそうでない子も彼の話を聞いてほしい。見終えた途端に書店に行きたくなるはずだ。(智)

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