行方不明の小5…強豪相撲部の高校生ら守る 雨でずぶ濡れでも小5に傘 見本となる人間に憧れ、角界入りへ

市川弘明署長から感謝状を受け取った、埼玉栄高相撲部の高山瞬佑さん(前列左)根岸康介さん(同右)鶴叶翔さん(後列左)伊賀慎之助さん(同中央)=21日午後、大宮西署

 全国屈指の強豪として知られ、元大関豪栄道(現武隈親方)を筆頭に大関貴景勝、関脇大栄翔=埼玉県朝霞市出身=ら、多くの関取を輩出している名門相撲部の部員が“大仕事”だ。21日、埼玉栄高校の高山瞬佑さん、鶴叶翔さん、根岸康介さん(以上3年)、伊賀慎之助さん(2年)の4人に対して、行方不明届が出されていた小学5年の男児を保護し無事に送り届けたとして、大宮西署の市川弘明署長から感謝状が手渡された。「思いやりの気持ちを大切にしなさい」という同校相撲部の山田道紀監督(56)の教えを、まさに体現したたまものだった。

 16日午後8時40分ごろ、夜食後の日課の自主トレーニング中の出来事だった。

 高山さんと伊賀さんが、さいたま市西区の公園で腕立て伏せをしていると「何をしてるの?」と近づいてくる1人の男の子がいた。会話をしながら高山さんは「周りに大人もいないし、こんな時間におかしいな」と感じ、一度、男児を学校の相撲道場まで連れて行った。道場でトレーニングしようとしていた根岸さんと鶴さんと遭遇。話し合い、警察に送り届けようと決めた。

 根岸さんが600円と道場に1本だけあった傘を持って4人は男児と大宮西署まで約2キロの道のりを歩き出した。「お腹が空いた」という男児に、途中のコンビニエンスストアでおにぎりや唐揚げ、お菓子を買ってあげたり、道中は「何人兄弟なの?」「好きなゲームは何?」などと心にも寄り添い続けた。

 途中で雨が降り出し、団体と個人で出場する全国高校総体(インターハイ)を控える高山さんを寮に返す仲間への気遣いを忘れなかった3人。同署に着いた頃にはだいぶぬれていたが、根岸さんが傘を差して男児を守り抜いた。男児は同日午前に自宅から姿が見えなくなり、行方不明届が出されていた。

 普段から「感謝の気持ちと思いやりの気持ちの大切さ」を説いている山田監督。大相撲で活躍する力士を何人も育て上げたが、教え子がこういう形で表彰を受けるのは初めてだという。「1人の子どもが何もなかったというのが一番良かった」とした上で「自分のお小遣いでご飯を食べさせたり、レギュラーを気遣って先に返したり、そういう気持ちがうれしいですよ。よく頑張った」と頬を緩めた。

 全国大会が控えているだけでなく、新型コロナウイルス対策に神経を注いでいるだけに、ずぶぬれ状態で寮に戻ったことで、事情を知らなかった山田監督に最初は怒られてしまったという3人。「近くのスーパーに寄って連絡してもらったり、警察の人に来てもらうなどの判断ができていなかった」と反省する根岸さんだが、「助けることに迷いはなかった」と言い切った。

 部のエースの高山さんをはじめ、根岸さんと鶴さんは今後、角界入りする予定。一つ屋根の下、寝食を共にしてきたことで身に付けた周囲への気配りと困っている人を助けられる優しさは、「見本となり人に好かれる力士に」という理想像を掲げる3人の成長を後押ししてくれるはずだ。

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