つみたてNISAとiDeCoの投資信託はなぜ限定されているのか−−背景にある黒歴史

つみたてNISAは金融庁の基準をクリアした投資信託213本(2022年7月現在)、iDeCoは厚生労働省が設定した35本を目安に運用商品が限定されています。今回は、商品数が限定されている理由を解説します。


貯蓄から資産形成が難しい理由

おそらく「投資」と聞いて多くの方が最初にイメージするのは「株の取引」ではないかと思います。株を買うというのは、その会社の株主になり資金を提供するという意味です。したがって、投資した会社が利益を出せばその一部を配当金として受け取りますし、株を売却して売却益を受け取ることもできます。

個別の企業の株の取引をするのですから、専門的な知識も必要ですし、その時々の状況を判断しながら機敏に行動をすることも必要でしょう。当然ながら、株の取引には、ある程度まとまった資金も必要です。また、特徴の異なる多くの企業に同時に投資をすることで、万が一の倒産リスクを回避し、様々な経済環境の中でも利益をあげやすくする仕組みを構築する必要もあります。

債券投資も代表的な投資手法の一つです。債券に投資をする際は、その発行体(国債ならその国)の財政状況を分析して貸しても良いところなのかどうかを見極めます。いつ元本を返すのかという償還を設定しますし、金利も決めます。この条件が適切なものなのかをきちんと判断しないと、資金が回収できないことも起こりえます。

株と異なり債券は、先に条件を決めてから資金提供をするので、安定した投資と言えます。しかしそれではあらかじめ決められた金利条件でしか利益は見込めないため、実際は適時債券を市場で売買して利益を追求しています。しかし償還前の債券の売買は、その値段が市場で決定されるため、損をすることもあり非常に高度な知識と技術を必要とします。

このように代表的な投資手法である株式や債券だけを見ても、その難易度は低いとはいえず貯蓄から資産形成へと言われても、なかなか一般の方が「じゃあやってみようか」とはならないのが実情です。

そこで、投資のハードルを低くし、裾野を広げるために様々な工夫が行われているのが投資信託です。一言でいうと、株式や債券といった従来の投資の難しさを排除し、投資のプロに運用を任せてパッケージ化した金融商品が投資信託です。

投資信託の魅力とは?

投資信託は、ファンドマネージャーという投資のプロにお金を託し、運用を任せます。

ファンドマネージャーは、投資の専門家ですから、前述したような投資の難しさを一手に引き受け、利益を追求します。投資信託を購入する際の資金は少額から可能ですが、たくさんの投資家のお金がファンドマネージャーの元には集まるので、その潤沢な資金をもって様々な投資先に「分散投資」ができるのもメリットです。

ファンドマネージャーもそれぞれ専門性があり、ある投資信託は日本の株式に投資する専門だったり、ある投資信託は先進国の株式に投資をしたり、債券に投資をしたりと種類があります。従って投資家はそれらの投資信託の特徴を踏まえ、組み合わせることにより、専門知識を持たずとも、ダイナミックな国際分散投資ができるのも魅力と言えます。

投資信託は、株のように毎秒毎に値段が変わることがありません。値段は市場での売買がすべて終了してから決まるため、一日に一回だけ値がつきます。この特徴を活かし、定時定額を口座から振替えて投資信託を買い付けるという自動積立の仕組みが整いました。

もちろん投資信託にも黒歴史があります。金融機関が「販売者のメリット」を追求するがあまり、投資家に短期的な取引を勧める「回転売買」です。

投資信託は銀行や証券会社など金融機関の窓口で購入するのですが、その際、売り手は商品を販売したその手数料がもうけとなります。つまり、販売側からすると売買の回数が増えるほど手数料が増えるので、投資家に投資信託を買ってもらい、その後「もっと良い商品がありますよ」と言って売らせ、違う投資信託に乗り換えさせることを繰り返す行為が問題視されているのです。

また投資信託の資産から日々差し引かれる信託報酬というコストは、販売会社と運用会社の利益になりますから、信託報酬の高いものを故意に提案しているのではないか、と言われることもあります。

そこにメスをいれたのが金融庁の「つみたてNISA」です。

つみたてNISAで投資できる商品とは

金融庁はつみたてNISAを「特に少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度」と定義しています。また「投資初心者をはじめ幅広い年代の方にとって利用しやすい仕組み」とするために、投資できる商品を「投資信託」に限定しています。

販売手数料はゼロ、信託報酬は一定水準以下と徹底的に投資家メリットを追求した基準を設けたのです。これにより投資初心者であっても、販売側主体の商品を「売られるリスク」を排除したのです。

つみたてNISAでは、毎月分配型の投資信託もNGです。これは「分配金」を出すことを目的としたばかりに、自分の資産を食い潰すような商品が散見され、長期の資産形成にはふさわしくないという理由です。

一般的に選ぶのが難しいとされるアクティブファンドについても、金融庁が一定の基準を設けてふるいにかけているのも投資家にとってはメリットです。

iDeCoはわかりやすさを追求

iDeCoの運用商品数は、「投資商品が36本以上あると投資先を自分で選べなくなる人が急増する」との調査結果をふまえ、厚生労働省が35本としました。これはiDeCoというより企業型確定拠出年金(DC)の方がピンとくるかもしれませんが、企業型DCの場合、会社の制度だからとよくわからずに加入するケースも多く、そういう方でも利用しやすいようにという配慮とも言えます。

一方、個人が任意で加入するiDeCoは2017年に加入対象者が拡大したことにより、新規運営管理機関が多数参入し競争が激化、また情報公開が進んだことで組み入れられる投資信託の低コスト化が加速しました。35本と上限が設定されているため、運営管理機関もより商品選択に慎重になったのか、それぞれの投資信託の運用コンセプトからコストの開示について「よりわかりやすく」工夫したものが増えてきました。

一方、取り残され気味なのが企業型DCです。そもそも企業年金であるため、情報が公開されることもないまま時間が経過し、結果的に信託報酬が高いまま、商品としての成績が振るわないまま、そのまま残っているという指摘もあります。

企業型DCの導入企業には、より加入者の利益を追求するための商品の入れ替えや手数料の引き下げ交渉が期待されていますし、加入者に対しては今年10月よりiDeCoの併用加入を認めることで、より広い選択肢が準備されるようになります。

商品選択のベンチマークに

投資にはリスクがつきものですが、リスクをコントロールする術を身につけることは重要ですし、それぞれのライフプラン実現のために適切な金額を投資に振り向けることの必要制を理解することで、リスクに対する耐性も増してきます。

すると、つみたてNISAとiDeCoは、「貯蓄から資産形成へ」を掲げる国の方針を具体化した制度だ、ということがより理解できると思います。それぞれ商品を絞ることで、投資経験の浅い国民へ、投資との向き合い方をガイドしてくれるものだとも言えるでしょう。

まずはこの2つの制度を資産形成のスタート地点とし、ここで指定された商品をベンチマークとして投資を学んでいくことがよろしいでのはないかと考えます。

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