<金口木舌>異常に慣れるな

 古いメールを見返して、思わず手が止まった。昨年1月、新型コロナウイルスの新規感染者が「過去2番目に多い130人だった」という内容の社内メールだ

▼一昨日、7月26日の新規感染者は5622人。1年半の間に43.2倍に増えた。変異株の出現という大きな変化があったにしても、文字通り桁違いだ。県内各地の病院で救急や外来診療が制限され、医療機関の欠勤者も多く出ている

▼医療の逼迫(ひっぱく)は日に日に深刻さを増す一方、当時のような警戒感が社会にあるだろうか。混乱してパニックになるより良いとは思うが、「異常」に慣れてしまって感覚が鈍っていないかと自問する

▼人は大きなリスクと直面した時、自分だけは大丈夫だと思い込む「正常性バイアス」に陥りやすい。長引くコロナ禍で、感染症の危険性の認識もゆがめられているのかもしれない

▼観光を基幹産業とする沖縄にとって、夏場に社会経済活動を維持していくことは非常に重要だ。でもそれは、危機感を失うこととイコールではない。「正しく恐れる」を忘れずにいたい。

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