Palastleben - 極上の模倣品こそニューウェイヴやポスト・パンクの真髄であることを知る確信犯的異能集団、待望の第2弾シングルを発表

スクラップ&ビルドを絶えず繰り返すバンド

──今回の『Neon Escape / New Order』は6月上旬頃に配信するはずでしたが、なぜリリースがずれ込んだのでしょう?

Mörishige:いきなりイタいところを突いてきますね(笑)。

マリアンヌ:本当は6月どころか5月末くらいには出すプランだったの。第1弾の『Monaural / Danse.Karma』が4月末だったので。

Mörishige:そう、最初は2カ月連続リリースという華々しい計画だったんですよ。

マリアンヌ:何せ今回の配信曲をまとめて録ったのは今年の1月でしたから。ただそこからトラックダウンしたり、いろいろと調整する作業が断続的になったもので。第1弾をリリースする頃には今回の『Neon Escape / New Order』もミックスはある程度進んでいたんですけど、若干の手直しを施そうと思いながらも放置してしまって。

──手直しというのはアレンジ的側面ですか。

マリアンヌ:ワタクシの歌や音のバランス、一個一個の音の仕上がりと言いますか。エンジニアさんも忙しいし、メンバーの予定を合わせながらのんびり作業していたのがリリースの遅れた原因…というか、キノコホテルの厄除け総決算ツアーのせいか(笑)。Mörishigeにはひたすら余裕がないアピールばかりしていたんですけど、彼はジェントルマンなので、「いいよいいよ、無理をしないでやれるタイミングでやろうよ」なんて言ってくれるものだからワタクシもつい甘えてしまって。

Mörishige:ホントだよ(笑)。

──絶対にこの日までに出さなくちゃいけないとか、締め切りをちゃんと設定しないとスケジュール通りに動くのは難しいですよね。

マリアンヌ:そうなんですよ。現状、レーベルに所属もしていないのでいくらでも引っ張れてしまう(笑)。でも、こうしてリリースできただけでも立派じゃない? お蔵入りにならなくて良かったわよ。

Mörishige:締め切りが大切ってことが身に沁みて理解しました。ケツを叩くメンバーなんていないし、ドMのように自分で叩くしかないんですけど。

マリアンヌ:完全にセルフプレジャー(笑)。

──2020年12月20日に新宿ロフトで開催された『マリアンヌ東雲 性誕祭』でオープニング・アクトを飾ったのがPalastlebenのライブ・デビューですから、公の場に姿を現してから約1年半のあいだに4曲も配信リリースしているのはかなり順調な活動ペースと言えるのでは?

マリアンヌ:ワタクシは凄く順調だと思ってますよ。それはMörishigeみたいに曲を作ってくれて、バンドを前に進めてくれる人がいるから。PalastlebenはMörishigeとワタクシで主に事を進めて、ドラムのShintaroくんがグッズのデザインをしてくれたり、あとの2人も細々したことをいろいろやってくれるので各々に役割分担があるのが良いですね。

Mörishige:今までやってきたバンドと違って、他力本願でやってちゃダメだなと思って。

マリアンヌ:Mörishigeもワタクシと同じで根が真面目なんです。見た目はチャラチャラしてるくせにね(笑)。でも彼みたいな人がいないとPalastlebenはとっくに自然消滅してますよ。ワタクシがキノコホテルの活動で忙しくなった時点で完全に止まってしまうし、その間に彼が動きを止めずにいろいろ進めてくれるのが有難いことなんです。

──現時点でPalastlebenのレパートリーは何曲あるんですか。

Mörishige:いつも才能の枯渇に苦しんでるんですけど、40分くらいのライブを何とか保たせるだけの持ち曲はありますね。

マリアンヌ:数だけでいえばけっこうあるんですけど、もうやらなくなってしまった曲も多いですね。スクラップ&ビルドを絶えず繰り返している感じ。

Mörishige:デビュー・ライブで披露した曲で残ってるのは1曲しかないですからね。

マリアンヌ:パンダの旦旦(タンタン)をテーマにした「Exotic Panda」って曲ね(笑)。タイトルはMörishigeが考えたんですけど。

Mörishige:そのタイトルからして初期の迷走ぶりを物語ってますね(笑)。

マリアンヌ:そう、初期の闇雲な日本語曲の一つ。日本語曲が1曲ずつ消滅していって、それらと入れ替わるように英語詞の新曲群が台頭してきて少しずつこなれていったわけです。その中で「Exotic Panda」だけが未だセットリストに残っているという。

いい意味で無責任なことがやりたかった

──Palastlebenはマリアンヌさんが英詞で唄うのがまず驚きなのですが、それは自然な成り行きだったんですか。

マリアンヌ:ワタクシも驚いています(笑)。最初の頃はMörishigeが作ってきてくれた曲にワタクシが日本語の歌詞を乗せていたんですけど、どうもしっくり来ないんですよね。それをどこかのタイミングでMörishigeに話したの。

Mörishige:たとえば洋楽的なニュアンスのある日本語を歌詞にする選択肢もあったのかもしれないけど、日本語だとどうしても伝わりきってしまうというか。Palastlebenでは英語の伝わりにくさが大切だったりするんですよ。

マリアンヌ:そうなの。別に伝えたいことなんてないですし(笑)。日本語で意味のない詞を書けば良いじゃないかとも思ったんですけど、もう日本語自体が違うような気がして。加えてPalastlebenではもっとくだけたこと、いい意味で無責任なことがやりたかったんです。自分が自在に操ることができない言語で唄うだなんて今まではポリシーが許さなかったのに、急にそれをやってみたくなった。それでMörishigeが英語に堪能だったことにはたと気づきまして、新しい曲ができたタイミングで「英詞にしてみない? 英語の歌詞を書いてよ」とお願いしたわけです。

Mörishige:その第1弾が「New Order」。

マリアンヌ:エッ、「Neon Escape」じゃない?

Mörishige:「Neon Escape」と「New Order」は同時期に作ったんだっけ?

──まあでも、図らずも今回配信される2曲であったと。

マリアンヌ:順序で言えば、4月に出した「Monaural」と「Danse.Karma」は「Neon Escape」と「New Order」の少し後にできたんです。……で合ってる?(笑)

Mörishige:そうだと思う。

マリアンヌ:「Neon Escape」と「Danse.Karma」はワタクシが同時期に書いた曲で、「New Order」と「Monaural」はMörishigeが書いた曲。

──憂いを帯びた「New Order」はマリアンヌさんらしいメロディ・ラインだと思ったのですが、Mörishigeさんの曲だったんですね。ということは、曲調がいい具合に混ざり合っているというか、お二人のあいだで楽曲の方向性に相違がないという見方もできますね。

マリアンヌ:Mörishigeの曲はドラムのShintaroくんと一緒にスタジオに入ってセッションしながら作ることが最近は多いんだけど、出来上がった時点ではあまりメロディが定まってないんです。でも彼は詞を書いてくれるので、その詞にワタクシがメロディを付けながら、ワードが足りなければ補作していく感じなんですけど、そこで自分の特性が出てくるんでしょうね。トラックや曲の原案はMörishigeが持ってきて、それをワタクシが補完させる共同作業が上手くできていると思います。

──マリアンヌさんにとってはかなり特殊な作曲法ですよね?

マリアンヌ:責任を分散できる意味でもかなり特殊ですね。

──いつも難産である歌詞を第三者に委ねられるのがとても大きいようにお見受けしますが。

マリアンヌ:それは英詞だからこそだし、彼がメロディを想起しやすい歌詞の当て方をしてくれるんですよ。

Mörishige:そこはちょっとだけ意識してるけど、あまり意識しないようにしてます。こっちの投げたボールに対して思いも寄らぬ返し方をマリアンヌさんがしてくれるので。自分としては、Shintaroと作るデモもそうなんですが、あまり詰め込みすぎないようにしてますね。メンバーを信頼して、みんなが上手いこと形にしてくれるだろうという希望的観測を元にデモや歌詞を持っていきます。

──「Monaural」のように鋭角で性急なリズムを前面に押し出すタイプの曲は、従来のキノコホテルのリスナーならとても斬新に映るでしょうね。

マリアンヌ:「Monaural」は曲作りにドラマーが関わっているのが大きいですね。キノコホテルのデモはワタクシが全パートを作るけど、曲作りに関わる人が増えれば自ずとそのパートの個性がにじみ出てくるものですから。Palastlebenはそういう各人の特色のバランスもいい気がします。Palastlebenではいわゆる歌モノをやりたいわけじゃないので、ワタクシの歌を前面に出したい意識も最初からなかったですし。それこそロクに歌わずにスカスカなサウンドを淡々と奏でるような楽曲があっても良いわけで。メンバー5人いますけど別に音を分厚くしたいわけでもないですし。

Mörishige:確かに。音を重ねるカタルシスはこのバンドにないので。

「ニューウェイヴとかポスト・パンクをやってる」と言いたいだけ

──「Danse.Karma」はGang of FourやMagazine、あるいはTalking Heads辺りの影響が窺えるし、「New Order」は頭のリズムが思いきり「Blue Monday」ですよね?(笑) ステージ上のMörishigeさんはロバート・スミスにそっくりだし、そういったパンク‏/ポスト・パンク、ニューウェイヴ、オルタナティヴ的な音色やキーワードは当初から構想していたんですか。

マリアンヌ:ワタクシに関して言うと、日本のパンクやニューウェイヴは好んで聴いていたんですけど、いわゆるポスト・パンクは全然通ってないんです。そのくせ「ポスト・パンクって何かスカしてていいんじゃない? やってみたいわ」なんていい加減なことを言って、パンク好きな友人に嗜められたりして(笑)。でもワタクシは、何でも形から入りたがるタイプなものですから。やっていくうちに見えてくるだろうと思って。それくらいの軽いノリで始まったんですよ。

Mörishige:僕も正直に言えば五十歩百歩なんですよ。

マリアンヌ:Mörishigeはもともとヴィジュアル系だしね(笑)。

Mörishige:まあね(笑)。リスナーとしての観点ではなく、プレイヤーとして出したサウンドが結果としてニューウェイヴやポスト・パンクっぽいものだったというか。それがPalastlebenらしさなのかなと思いますね。

マリアンヌ:ニューウェイヴっていうのも、要はニュアンスなんです。時代の音という意味で言えば、当時のニューウェイヴなんて40年前のオールドウェイヴじゃないですか。率直に言ってワタクシは「ニューウェイヴとかポスト・パンクをやってる」って言いたいだけなんです。だって何だかお洒落じゃないですか(笑)。

Mörishige:そうそう、ニューウェイヴって名乗りたいだけ(笑)。本物志向もいいけど、極上のニセモノをやるほうが抜群に面白いですから。

──でも、2年前の『性誕祭』で初めてPalastlebenを見たときはUltravoxみたいなことをやろうとしているのかな? と思ったんですけどね。

マリアンヌ:ああ、当時はその傾向があったかもしれませんね。あの辺の初期にやっていた曲も英詞に替えたら敗者復活もあるかもしれない。

Mörishige:繰り上げ当選、復活当選ね(笑)。

マリアンヌ:初期の曲は日本語を載せることでどこかヴィジュアル系の香りが漂ってきてしまうフシがあって、個人的には悩ましさを感じていた記憶があります。

──そもそもPalastlebenに早くステージ・デビューをさせたい、早々にお披露目したいというヴィジョンがあってご自身の『性誕祭』に起用したんですよね?

マリアンヌ:それはキノコホテル単体でライブができない事情があったからですね。それならいっそPalastlebenのデビュー戦にしようとワタクシの独断で決めました。メンバーに声をかけたら「やりたい!」と即乗っかってくれましたし。

──その数カ月前にバンドが始動していたわけですよね?

Mörishige:初めてみんなでスタジオに入ったのは2020年の9月でした。

マリアンヌ:そのスタジオでデビュー・ライブの話をして、そこから曲作りを始めて。

Mörishige:その時点では0曲だったからね。だからいかに締め切りが大切かって話ですよ。

──最初の話に戻りましたね(笑)。

マリアンヌ:曲作りを頑張ってくれてたMörishigeに対して、ワタクシはデモの仮歌がキモいだの散々なことを言ったわけなんですけど(笑)。

Mörishige:そう、そんなことをマリアンヌさんに言われて、二度と歌は唄わねえ! と心に固く誓ったんです(笑)。それ以降、デモは余白を残すようになりました。マリアンヌさんのほうでメロディを作ってくれるし、僕ごときが作ったメロディなんてどうせ後で変えられるので(笑)。

マリアンヌ:デモをよく聴くと歌メロっぽいものも入ってるんだけど、率直に言って気持ち悪いんですよ(笑)。音程も破壊的で仮歌の意図するところもよく分からなかったし。

──オリジナル曲を作るのも難儀したかもしれませんが、『性誕祭』で披露した『MOOD ADJUSTER』(2019年11月に発表されたマリアンヌ東雲のソロ・アルバム)の曲を集中して習得するのも大変だったんじゃないですか。

マリアンヌ:オリジナル曲が足りなかったし、ワタクシの性誕祭だからソロ曲をやるのもいいんじゃないかと思って。

Mörishige:マリアンヌさんのソロ曲は、後にも先にもあのときしかやらなかったよね?

マリアンヌ:「絶海の女」だけはその後何回かやったわよ。

Mörishige:ああ、そうか。それがまたPalastlebenのセットリストに馴染んでいたんですよ。

マリアンヌ:「絶海の女」はPalastlebenで英詞バージョンを作ってもいいんじゃないかしら? フェティッシュなニュアンスが増すと思うの。

Mörishige:いいかもね。あの曲はダブな印象があるし、Palastlebenなら面白いアレンジでやれるかもしれない。

マリアンヌ東雲が緻密すぎるデモを作る理由

──ダブと言えば、「Monaural」の竹内(理恵)さんのサックスは意図的にダブっぽい処理をしていますよね。ダイレクトな演奏をそのまま残すのではなく、あえてサンプリングしてコラージュのように散りばめてあるというか。

Mörishige:サックスの使い所は何度もトライしてる部分があるんですよ。適宜な場面で音を足したり、あるいは削ったりして。

マリアンヌ:サックスは生かすも殺すも使い方次第だと思っています。竹内さんは基本的に即興の人だからその特性を生かしたいですし。サックスがいることの必然性を感じさせる曲をちゃんと作りたいと常に思っています。

──配信リリースされた4曲を聴いて感じたのは、Palastlebenの目指す音楽性を端的に言えば先鋭的なダンス・ミュージックだということですね。ニューウェイヴだのポスト・パンクだの堅苦しいジャンルの定義はひとまず置いて、とにかく踊れて楽しいぞっていう。

マリアンヌ:そうですね。一言に踊れる音楽と言ってもいろんな解釈があるでしょうけど、それは自分が音楽をやり続ける上で一貫したテーマなんです。

Mörishige:4つ打ちのトランス感、ちょっとドラッギーな印象って言うのかな。そんなニュアンスをPalastlebenの音楽に感じてもらえたら嬉しいですね。ドラッギーと言っても僕はバファリンくらいしか飲まないんだけど(笑)。

マリアンヌ:しかもその半分はやさしさでできてるからね(笑)。

Mörishige:曲の持つ抒情性もいいけど、ミニマリズムも大事だと思うんです。何度も繰り返すループ感、無機質さというか。その辺のバランスは意識してますね。グルーヴィだけど熱を帯びず、延々と繰り返される長谷川さんの禁欲的なベースフレーズはその一端でもあって。

マリアンヌ:「New Order」は無機質な感じのまま淡々と終わるのかと思えば、わりとエモーショナルな感じになっていくのが面白いと思う。

──初の公式映像である「Monaural」のミュージックビデオはMörishigeさんとマリアンヌさんが監督を務めた作品でしたが、「Neon Escape」のミュージックビデオは?

マリアンヌ:「Monaural」と同じく西邑(卓哲)くんに撮影をお願いしたんですけど、ワタクシがツアー中だったのでMörishigeが一人で編集から仕上げまで全部をこなしてくれたんです。ほら、そういう自分の手柄の話をしたほうがいいわよ(笑)。

Mörishige:話すと長くなるけどいいですか?(笑)

──映像の編集作業は以前から学んでいたんですか。

Mörishige:いや、全く。これはシチュエーションに迫られた底力というか、火事場の馬鹿力というか(笑)。誰も手伝ってくれないから自分一人でやるしか選択肢がなかったんですよ。

マリアンヌ:まさに“やる or DIE”(笑)。

Mörishige:「Monaural」は僕がメインで作曲したのでどんな映像にしたいかのアイディアも自然と出てきたんですけど、「Neon Escape」は作曲がマリアンヌさん、作詞が僕で、アレンジもマリアンヌさんがデモの段階でかなり綿密に作ってくれたんです。そういう自分がメインじゃない曲のミュージックビデオを作る上で、人の曲だから手を抜いたんだなと思われたくなかったんですよ。前作は僕がまず絵コンテを作って、それをマリアンヌさんの意見も交えながら西邑くんが編集していくっていう過程だったんだけど、彼も自身のプロジェクトの制作に今も追われていて手が回らない状況で。でも、彼は前作を一緒に作った過程で「そこまで自分のヴィジョンが明確に見えてるのなら、もはや君自身で全部やってしまったほうが満足のいく作品になると思うよ」って進言してくれたのも大きかった。それにコンテを書く過程や作詞の過程で見えてるヴィジョンも確かにあって、マリアンヌさんの加筆した歌詞を読んだ上で、根拠はないけど良いものができる気はしてたんですよ。なんたってマリアンヌさんやメンバーの画の存在感に助けられました(笑)。

マリアンヌ:映えるフロントマンがいて良かったわね(笑)。ちなみに言うと、ワタクシのデモは完成度が高いことで有名なんです。

Mörishige:かなりワガママなデモだよね。今まで他人を信じてこなかった人が作るデモだなと僕は思ってるけど(笑)。

マリアンヌ:言い得て妙な発言ね。見出しにしたいくらいだわ(笑)。

──「Neon Escape」というタイトルからしてマリアンヌさんっぽくないですか?

マリアンヌ:タイトルはMörishigeが付けてくれたんです。曲を書いた後は丸投げで。

Mörishige:でもそのタイトルや歌詞はマリアンヌさんのことを想定した当て書きなんですよ。酩酊感というか、暗い夜の街を一人でふらふら歩いていると“Neon Escape”な気持ちになるんじゃないかっていう。この曲の歌詞を考える中でいくつかキーワードがあって、それが「孤独・酩酊・逃避・暗中模索」。そこにマリアンヌさんのワードセンスを交えて最終的な形になりました。

マリアンヌ:それを言ったら365日、“Neon Escape”しっぱなしです(笑)。

Mörishige:僕はそもそも歌詞を書くこと自体、初めての行為なんです。歌詞を書くのも誰かのために書くのも初めて。

マリアンヌ:歌詞が英語になると振り切れて書けるところもあるんじゃない?

Mörishige:それはある。ちょっと無責任になれる感じがあるね。

マリアンヌ:ワンコーラスだけ彼に触りの歌詞を書いてもらって、1番の歌詞はMörishige、2番の歌詞はそのノリを引き継いでワタクシが書く、というような共同作業ができるのがいい。

──1番と2番で違和感がないのが見事ですね。

Mörishige:「Monaural」のミュージックビデオを一緒に作ったときもそうだったんですけど、音から見えてくるヴィジュアルがお互い凄い離れてるってことがなかったんですよね。

マリアンヌ:あらイヤだ、いろいろと感覚が似てるのかしら。

Mörishige:僕はもうちょっと他人のことを信頼できるけどね(笑)。

ギャラの分配で揉めるくらい売れてみたい

──話を伺っていると、マリアンヌさんが従来のバンドと違って創作のキャッチボールができる喜びを実感しているのがよく伝わってきますね。

マリアンヌ:最初にMörishigeが歌メロを入れない骨組みだけの素材を持ってきて、それをスタジオでみんなで合わせて作っていって、その曲の方向性が見えてきた段階でメロディと詞を乗せるわけなんですけど、その段階でワタクシの中では何となくのイメージができているんです。詞は彼がとっかかりの部分を書いてくれるので、それを補作してメロディを付けていくのが初体験で面白い。Palastlebenならではの不思議な手法ですね。すでにあるトラックをどう化けさせるかという楽しさもありますし。その作業の中でのワタクシの責任の度合いがちょうど良くて、メンバー各自がそれぞれ得意なことだけをするというか。

Mörishige:マリアンヌさんの歌がなければ、「Monaural」はバンドとして最初のリリース曲には絶対ならなかったですね。レコーディングの過程で曲が変化していって、これはこのバンドらしい曲だなと考えが変わっていったんですよ。「Monaural」は最初、後発曲になるような印象で作っていたし、Palastlebenの1曲目としては、テンポ感やキャッチーさも含めて僕は「Neon Escape」がいいと思っていたので。

マリアンヌ:ワタクシは「Monaural」をあえて1曲目にするのがいいと思いました。バンドの推し曲、リード曲を最初に持ってこないスカした感じが逆にいいんじゃないかと(笑)。

Mörishige:僕は凡人なので、どうしてもリスナーの気持ちを考えてしまうんですよ。聴く人がどう感じるんだろう? っていうのをつい気にしてしまう。

マリアンヌ:真っ当な考えじゃないかしら。商業的なセオリーで言えば、もっとキャッチーで初見で掴みに行ける曲を1曲目に持ってくるのがまあ定説ではあるから。プロデューサーやレコード会社だったら絶対そう言う!(笑) 「『Monaural』はちょっとシブくない?」って。でも今の暗い世の中にぴったりで別にいいんじゃない? って感じなの。A面が仄暗い「Monaural」で、B面がその真逆で能天気な「Danse.Karma」というバランスも絶妙だと思うし。そう言えば、今回の「Neon Escape」のミュージックビデオは内容が完全に「Danse.Karma」の世界なんですよ。何の意図もないんですけど。「Neon Escape」の映像に「Danse.Karma」の音をはめても何の違和感もないと思うわよ(笑)。

Mörishige:そうかもね。「Neon Escape」のミュージックビデオは曲のテンポに合わせてシーンの切り替わりを早くしたり、ネオンが飛び交うようなドープ感、VHSのビデオテープみたいな映像処理とかこだわりは多々あるんですけど。演奏シーン自体は「Monaural」のスタジオカットと同じ日に撮ったものなんです。

マリアンヌ:「Monaural」のスタジオシーンを撮った後に同じスタジオを使ってね。衣装とヘアメイクを変えて、撮影は確か午前3時くらい。

Mörishige:いろいろ作業が押してね。ワインを買ってきてみんなで飲んで、もうヤケクソ(笑)。

──キノコホテルを一時凍結させるることでPalastlebenの活動が一気に加速化するというわけでもないんですよね?

マリアンヌ:Palastlebenは決して手を抜いているわけじゃなく、いい意味で「こんなところでいいかな」と気負わずにできるバンドで、ワタクシ自身が純粋にこのバンドを楽しみたいんです。メンバーとは気楽な関係だし、特にMörishigeとは互いに遠慮なく愚痴を言い合える仲で、居心地もとてもいい。一人で何もかもを背負いこむのではなく、他のメンバーがいてくれることで俯瞰できるところもあるし、それくらいの距離感が本来は健全なんでしょうね。まあ、ギャラの分配で揉めるくらい売れてみたいという野望もないことはないんですけど(笑)。

──配信で4曲が発表されて、この勢いでアルバム制作まで繋げる感じですか。

マリアンヌ:来年には出そうという話はしています。

Mörishige:フィジカルで出したいですね。ここでそう言っておかないとまたダラダラしちゃうので(笑)。ただ、締め切りは確かに大事なんだけど、マリアンヌさんの歌に対するこだわりもあるからね。

マリアンヌ:そう、今回の「New Order」も実は歌をリテイクしました。

Mörishige:前のテイクも凄く良かったと思うんだけど、録り直したら俄然良くなったんだよね。

マリアンヌ:ワタクシの中で歌のアプローチが定まらないまま唄って、そのニュアンスが何か気に入らなくて。とりあえず唄ってみて、後で考えよう、なんて思っていたのが甘かったわけです(笑)。で、自宅で自分で録り直したの。

──「Neon Escape」のミュージックビデオを見て思ったんですが、いっそのことCDよりも先にVHSビデオでフィジカル・デビューするという時代錯誤感もPalastlebenらしくていいんじゃないですか?

Mörishige:ああ、そういう嫌がらせバンドとして活動していきますか?(笑)

マリアンヌ:嫌がらせ、大好き(笑)。こんなご時世だからこそふざけたことをやってみたい。手刀(チョップ)でのGIGをVHSにして出すとか(笑)。

──ところで、Palastlebenというバンド名は“宮殿”(palast)の“暮らし”(leben)を意味するそうですね。

マリアンヌ:翻訳サイトで“宮殿の暮らし”をドイツ語に変換したら“Palastleben”と出てきて。響きもいいし、リッチな感じがしていいかなと思って。

──ホテルや宮殿といった建物に対する執着心があるんでしょうか?

マリアンヌ:ああ、言われてみれば確かにそうですね。

Mörishige:『Monaural / Danse.Karma』のアートワークも建物だったしね。

マリアンヌ:あれは実は中野サンプラザが元ネタなんですよ。魔改造して上の階に回転レストランを勝手に増築したり(笑)。

Mörishige:建物フェチってことなのかな? 秀和レジデンスのマニアの人とかいるもんね。

マリアンヌ:“レジデンス”もいいわね。次に新しくユニットをやるなら“○○レジデンス”がいいか もしれない。

Mörishige:それじゃ“支配人”が“管理人”になっちゃうよ(笑)。

マリアンヌ:冗談じゃないわよ。虫の居所が悪いとやたらエレベーター止めて住民に喧嘩売りそう(笑)。でもホント、建物に固執してるのはなぜなんでしょう。とにかく雨風凌ぎたくて仕方ないのね。

Mörishige:宮殿暮らしのリッチな生活とは程遠い発想だね(笑)。

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