安倍元首相銃撃死と参院選 「維新の勢い止まった」関西学院大・冨田宏冶教授

安倍元首相が投票日2日前に銃撃され死亡する衝撃の中で行われた参院選は、63議席を獲得した自民党の圧勝で終わった。公明党とともに、非改選を含め与党で146議席と、過半数(125議席)を大きく超えた。これに対し、野党第1党の立憲民主党は改選議席を6議席減らす17議席にとどまり、12議席に倍増させた日本維新の会と明暗を分けた。選挙で示された民意とは何か、政局はどう動くのか。関西学院大法学部の冨田宏冶教授と時事通信社解説委員の山田惠資さんに話を聞いた。(新聞うずみ火 矢野宏)

選挙戦最終日の7月9日、京都・四条河原町。大雨にもかかわらず、両側のアーケードはびっしりの人波であふれていた。

午後7時過ぎ、日本維新の会の最後の街宣。車の上には維新新人の楠井祐子氏(54)と並んで手を振る国民民主党の前原誠司代表代行の姿があった。「大阪で改革の実績を残し、今や全国で改革を広げていこうとする維新とタッグを組み、自民に代わる政権の受け皿を作りたいのです」

京都選挙区は定数2。自民新人の吉井章氏(55)と5選を目指す立民の福山哲郎氏(60)の間に楠井氏が割って入った。前原氏は、かつての盟友・福山氏でなく、楠井氏を推した。

身を切る改革をアピールした吉村氏㊥=7月9日、京都・四条河原町

大阪に続き、兵庫でも知事選を制した維新にとって京都は「鬼門」。参院選では最重点選挙区と位置づけ、代表の松井一郎・大阪市長、副代表の吉村洋文・大阪府知事が連日のように京都入りした。

この日、遅れて登場した吉村氏が街宣車に上がった。

拍手が沸き起こり、一斉にスマホが向けられた。吉村氏が大阪以外でマイク納めをするのは初めてのことだ。

「日本に一つぐらい改革政党があってもいいじゃないですか。大阪は身を切る改革で税収を生み出しました。財政が厳しい京都も改革するしかないのです」

3人がつないだ手を高く掲げアピールすると、突然「ヨシムラコール」が起きた。

吉村人気に加え、公明票の一部が維新候補に流れたといわれ、楠井氏に勢いがあると言われたが、最終的には福山氏が2位当選を果たした。

「京都のことは京都で」と訴えた福山氏=7月9日、京都・四条河原町

維新は昨年の衆院選で公示前の4倍近い41議席を獲得した勢いに乗り、19選挙区に20人、比例区に26人を擁立した。結果は選挙区4(大阪2、兵庫1、神奈川1)、比例8の12議席を獲得、比例票では立民を上回った。だが、全国政党化に向け最重点区と位置付けた京都に続いて東京も落とした。松井代表は10日夜の記者会見で「足腰が不十分だった」と語り、代表辞任をあらためて表明した。

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「維新は全国から注目され、警戒感も強まり、勢いは止まりました。著名人や元知事らを多数擁立して比例票を底上げする戦略でしたが、思ったほどの効果はなかったようです」と冨田さんは分析する。本拠地・大阪では比例の得票率が衆院選から3・7ポイント減らしている。

「維新の勢いは止まった」と話す冨田さん=7月14日、関西学院大

さらに、「組織にゆるみがあるのではないか」を指摘し、「地方議員を締め上げてきた『モンスター的集票マシン』も代替わりするなどして、選挙に対してかつての厳しさが薄らいでいる」とみる。

「維新は地方議員の政党。自分のキャリアアップのために国会議員になりたいと思う人はいるでしょうが、全国政党化にあまり価値を見出さない人もいる。路線問題は深刻になるでしょう。松井氏は国会議員団、地方議員団をつなぎとめ、両方に重石をかける存在。後任は誰がなっても抑えがきかなくなるのではないでしょうか」

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