マスメディアの「安倍元首礼賛報道」…神格化に危機感

凶弾に倒れた安倍晋三元首相の「国葬」が9月27日、日本武道館で行われることが閣議決定された。保守系政治家だけでなく、新聞やテレビまでもが安倍元首相を過大に礼賛。このまま「神格化」されることが恐ろしい。(和歌山信愛女子短大副学長 高橋宏)

7月8日に安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。非業の死を遂げた元首相をおとしめるつもりはない。だが、岸田文雄首相をはじめとした与党の政治家だけでなく、多くのマスメディアが安倍元首相を過大に礼賛し、美化する現状に危機感を覚える。あまりにも衝撃的な死によって、安倍元首相に批判的な指摘や発言が封じられるばかりか、改憲や防衛費の増額、そして核共有などの主張が受けいれやすい状況が作り出されてはいないだろうか。

憲政史上最長の在職期間で、安倍元首相はどんな成果を上げたのだろうか。

安倍元首相の銃撃死を伝える7月9日付の全国各紙(矢野宏撮影)

集団的自衛権や特定秘密保護法などを成立させ、消費税を増税する一方で法人税を引き下げ、種苗法や種子法を廃止し、水道法も改正した。それらの「成果」は、少なくとも私たち市民にとっては戦争への道を切り拓き、格差を深刻化させるものでしかなかったはずだ。

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その一方で、森友・加計学園問題や「桜を見る会」問題など、説明責任が未だ果たされていない疑惑がてんこ盛りである。その安倍元首相を全額国費で国葬にするというのだ。

市民ら4000人が参加した大阪弁護士会主催の「共謀罪」反対集会=2017年5月、大阪市西区

「トラブルによる全電源喪失はあり得ない」という安倍元首相の答弁によって、国の電力会社への適切な指導がなされず福島第一原発事故が引き起こされたことを、私たちは忘れてはならない。事故後、原発の再稼働を当たり前のように進める状況を作り出したのは誰であったか。命を奪われたことで、その責任が一切不問に付されるのであろうか。それだけではない。「ご遺体」「ご葬儀」など特別な敬語表現を使いまくるメディアの報道に、国葬というダメ押しで安倍元首相の主張が全て正しく、実現することが正当化されて良いのであろうか。

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私たちは冷静に元首相の死とともに、核や原子力に対して、日本がどのように向き合うべきなのかを考えなければならない。この夏は、平和と核廃絶における日本の立ち位置を決める、大きな節目になる気がしてならない

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