祝福ムードに程遠い独立200周年

ネット上での独立記念日デモの呼びかけ(Twitter)

 今年の9月7日でブラジルは建国200年を迎える。1822年9月7日、ポルトガルから独立して「ブラジル帝国」が作られてから、2度目の100年を終えることとなる。
 本来なら、特別な記念をすべき日で、その日に向けて諸々の祝福企画が進んでいておかしくない。だが、現時点ではそれらしい盛り上げムードは一切感じられない。それどころか、緊迫感の方が高まっている。
 その理由は、ボルソナロ大統領が、自身の支持者に対して最高裁に対する全国的なデモを呼びかけてしまったからだ。
 民主主義には「司法、立法、行政」の三権分立の安定が不可欠で、どこの国でもそれは教えられている。ブラジルのように近代に軍事独裁政権を経験したような国では、ことのほか、このことは強調されている。
 ボルソナロ氏は自身の思い通りにいかないことを、支持者の力を使って強引に押し通そうとし、三権の関係を不安定にしている。同氏は独立記念日を2年連続でデモに利用している。ボルソナロ氏の熱狂的な支持者以外の人にとっては困惑ものの行いだ。
 今年は大統領選の年。現状、世論調査でボルソナロ氏は対抗馬のルーラ元大統領に支持率でリードされており、この独立記念日で自身の支持者を団結させようと試みているようだ。ブラジル国民のための日を「愛国心」の名を借りて、個人利用しようとしている印象だ。
 ただでさえ、サッカーのセレソンの緑と黄色のユニフォームが一方的に右派、保守のアイテム化していることを嘆いている人が多いのに、今度は独立記念日をも私物化。これでは、左派や中道の人は素直にこの日を祝えなくなってしまう。
 加えて、このデモに集まる人たちが暴徒と化さないかが極めて心配されている。去年の独立記念日も、トラック運転手たちが最高裁前の広場に侵入し、かなり心配された。今年もすでに「テロを画策しようとしている不審人物を見つけた」などの諜報機関によるリーク情報が報道されている。銃などの持ち込みを行って誰かの命が奪われるようなことが起きれば、独立記念日が世界に恥を晒す日にもなりかねない。
 こうしたことからもわかるように、今のブラジル国民にとって独立記念日は「祝うべき国民の誇りの日」ではなく、「不吉なことが起きないことを心配するだけの日」になってしまいつつある。100年に一度しかない貴重な機会をこのような形で迎えてしまったのは非常に残念だ。(陽)

© BRASIL NIPPOU