電力の自由化 次世代エネルギー支える蓄電技術

この夏の電力需給が厳しい。その背景を探ってみる。

明治以降、全国に無数の発電や配電の会社が誕生した。その後、淘汰されて10電力体制となって地域を独占した。発電・送電・小売りの垂直一貫体制だ。料金は、諸コストに利益を上乗せする「総括原価方式」ゆえ、赤字にはならない。

周波数とは、交流の電気が1秒間に同じ変化を繰り返す回数のこと。静岡県の富士川を境に、東日本側が50ヘルツ、西日本側が60ヘルツとなっている。1896(明治29)年に東京電灯がドイツから、大阪電灯はアメリカから発電機を輸入し、そのまま定着したからだ。周波数変換所は、静岡県の佐久間と東清水、長野県の新信濃の3カ所で、最大100万キロワット。原発1基分の発電量だ。

ちなみに、東海道新幹線は自前の周波数変換所を所有しており、60ヘルツに変換して疾走している。国内で異なる周波数を持つのは、世界で日本だけだ。

戦後、重化学工業を中心に経済発展を遂げ、家庭も電化が進み、消費電力は増大した。高度成長期は、石油火力発電が7割以上を占め、原発やLNG火力も大幅に増加。同時に、地域独占や総括原価方式の弊害が目立ち始め、競争原理が働かない「高い電気料金」が大きな課題になった。

関西電力堺港発電所(関電HPより)

総括原価方式は、適正利潤が保有資産×報酬率で算出され、原発のように資産価値が大きいと、利潤も大きくなる。それらの反省から「電力自由化の動き」が始まった。1996年からの発電部門の自由化で、製鉄や石油会社が参入。2000年からの小売部門の自由化によりガスや総合商社、石油会社など大口需要家や新電力が加わった。ただし、新電力のシェアは微少だ。

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節目が変わったのは2011年3月11日に発生した東日本大震災。原発の安全神話が崩壊し、日本全体の安定供給がない弱点が明らかになった。13年に「料金規制と地域独占」から、需要家の選択や競争を通じた「開かれた電力システム」の方向へ。発送電の分離、料金規制の撤廃、小売り全面自由化を目指し、日本卸電力取引所(JEPX)の設置、FIT(再生エネルギーの固定買取性)などの施策や電力取引監視委員会などチェック機関も新設。ただし、発送電の分離は「会計分離」「法的分離」のみで、資本分離はない。旧来の大電力の送電網に依存したままで、国内の電力消費の大きな伸びは見当たらない。

今後、電力網は集中型から分散型への動きが加速するだろう。

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  • 分散型発電と大規模型発電をネットワーク化し、制御するスマートグリップ(賢い送電網)
  • 電気自動車やハイブリッド車の蓄電池を連携し、非常時の補助電源にする試み
  • 電力網に、双方向性の情報通信機能を持たせ、電力の需要と供給を調整する動きも
  • 電気を蓄える2次電池で注目されるのはNAS電池。ナトリウム、硫黄から構成され、鉛電池に比べて高性能で、寿命も15年と長く、オフィスビル、工場、大型店舗などで夜間電力を生かす仕組み
  • 燃料電池にも注目。水素と酸素を化学反応させ電気を造り、熱効率も高く、8割が電気に変換し、送電の必要はない。(コラムニスト 羽世田鉱四郎)

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