“住民30人” 島唯一の子ども見守る 五島・黄島 人と人つなぐ定期船

定期船から降りてきた晋太郎ちゃんをタッチして迎える島民=7月、五島市

 7月、五島列島南部の小離島、黄島(長崎県五島市)。午後3時過ぎ、定期船が汽笛を響かせ港に着岸し、男の子が降りてきた。島でただ1人の子ども、晋太郎ちゃん(5)。約18キロ離れた本島・福江島の幼稚園から帰ってきた。顔見知りの男性が「おかえり」と笑顔を向けると「ただいまっ」と声を弾ませ、手と手でタッチした。
 五島市は11の有人島と52の無人島で構成される。黄島は周囲4キロほど。かつては捕鯨や農漁業で栄え、多いときは千人以上が住んでいた。小中学校の各分校は、2003年までに最後の1人が卒業。11年、廃校となった。現在の島の人口は60代以上を中心に約30人。
 東京でIT関連企業に勤めていた晋太郎ちゃんの父(54)は16年、Iターンで移住し漁師に。一本釣りに従事する。母(42)は晋太郎ちゃんを産んでから来島、合流した。
 晋太郎ちゃんは福江島との間を1日2往復する定期船「おうしまⅡ」(19トン)に乗ると、いつも一番前の席に座る。船窓の風景を眺めながらの片道約30分の旅。「波が高くても大丈夫。揺れて楽しいよ」。無邪気に話す様子に優しいまなざしを向けるのは船員の松本弘行さん(61)。「名前を呼ぶときは“しん”。家族のような存在だから」

定期船内であいさつを交わす晋太郎ちゃんと船員の松本弘行さん=7月、五島市

 黄島町内会長の山下雅真さん(62)は「島で子どもの声が聞こえるのが良い。昔はにぎやかだったから」と目を細める。晋太郎ちゃんの父は「島全体で守ってもらっている」と感謝する。
 地域の人に野菜をお裾分けされたり、釣った魚をお返ししたり。両親が仕事の際に晋太郎ちゃんを見てもらうことも。福江島の小学校への入学を来年に控え、両親は引き続き黄島からの通学を希望している。
 地域で支え合う島の暮らし。だが、都会と比べれば不便だ。買い物は福江島のスーパーなどに注文し定期船で届けてもらうか、船に乗って買いに行くしかない。診療所は週1回、午前中だけ医師が来島し開所。急患の際は山下さんらが海上タクシーを福江島まで走らせる。1人暮らしの年配の男性は「とにかく具合が悪くなったときが困る」とため息をつく。

約30人が暮らす黄島の全景=7月、五島市

 新型コロナウイルス禍で島外に暮らす出身者らの往来は減少。伝統行事も中止せざるを得なかった。船の燃油代高騰も暗い影を落とす。それでも定期船は変わらず島民の暮らしを支え続ける。運航する黄島海運の広瀬豊社長(73)は「船は『生活の足』で、人と人をつないでいる。これからも島の日常に貢献していきます」と語った。


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