【#あちこちのすずさん】空襲警報聞こえず…あわや 終戦間際、幼なじみが釣り

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを紹介しています。

(男性・82歳)

 故郷の九州に住む弟から「Yちゃんが亡くなった」と電話があった。Yちゃんは、私の四つ年上の幼なじみ。幼い頃の病気で耳が聞こえない。終戦間際のある夏の日の光景が浮かんだ。

 Yちゃんは釣りが好きだった。あの日、空襲警報が発令され、防空壕(ごう)がなかったわが家では、布団をかぶせた座卓の下にもぐっていた。

 気が付くと父が窓際にいてYちゃんを呼んでいる。そのそばへ行って驚いた。Yちゃんが近くにある堀で釣りをしていたのだ。しかも向こうを向いて座っている。大声で呼んでも気が付くはずがない。

 そのうち近くにある飛行場を空襲した敵機の急降下音が近づいてきた。父が狂ったように呼ぶ声に気付いたのか、ご近所の男性が飛び出してきて、Yちゃんを抱きかかえ、柿の木の下に飛び込んだ。その後をダダダッと機銃掃射。すんでのところで事なきを得た。

 ウクライナの映像が流れるたび、Yちゃんを思い出し、障害のある子のことが心配になる。Yちゃんは享年86。機銃弾を逃れて、ほぼ天寿を全うした。

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