愛されて40年 長崎「寿し・割烹 松ふじ」閉店 店主、病気理由に「客へ感謝」

40年営んだ店の前で「たくさんの人に愛された」と話す松本さん=長崎市

 長崎市本石灰町の「寿(す)し・割烹(かっぽう) 松ふじ」が7月、惜しまれながら40年の歴史に幕を閉じた。新型コロナウイルス禍でも客足が絶えない人気店だったが、店主の松本澄雄さん(72)の病気が悪化。「急に閉店して心が痛かった。長い間愛していただけて感謝の一語に尽きる」
 飲食店が軒を連ねる銅座地区にあり、天然にこだわった地魚の刺し身や牛刺しが人気だった。カウンターにはブリ大根やアジの南蛮漬けなどを盛り付けた大皿が積み重なり、地元客のみならず観光客にも親しまれた。
 松本さんは五島市出身。高校卒業後に調理人を目指して東京で5年、長崎市内で10年修業を積んだ。兄弟9人を育ててくれた母がいる五島で店を構えることも考えたが、「流行(はや)る店になって成功するのも親孝行」と地元の先輩に背中を押され、1982年10月に妻と現在地で開業。「小さいけど、いつも客でいっぱい」の店を目指した。
 モットーは「誠意とやる気」。少しでも居心地良くしようと、冗談を言って客を笑わせたり、調理中も包丁を置いて外まで見送ったり。老人ホームを訪問して寿司を握り、振る舞ったことも。味や接客が徐々に評判を呼び、県外にも常連客ができるほどに。新型コロナの影響で休業した時期もあったが、再開後はすぐにぎわった。従業員たちは深夜の片付けまで力を貸してくれた。「どんなときも一緒に頑張ってくれた彼らのおかげで今日がある」
 2年前、狭心症と診断された。多忙な日々で過労がたまり、7月4日、自宅で急に胸が苦しくなり即入院。8年ほど前から息子と共に調理場に立ってきたが、忙しい店を1人で任せるのは酷だと考えた。医師の忠告もあり、そのまま店を再開せず看板を下ろした。
 退院した松本さんは、誰もいない店内を片付けながら「がむしゃらにやってきた。悔いはない」と笑った。今でも予約や問い合わせの電話が鳴り、店の様子を見に来る客が絶えない。「やめないで」という声も相次ぐ。「たくさんの人に愛された」と実感している。


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