“ハートフルチケット”がつなぐ善意のバトン 諫早の駄菓子屋「まんだら堂」

店を訪れた大人からのメッセージとハートフルチケットを持つ井上さん=諫早市小長井町、まんだら堂

 今年3月、長崎県諫早市小長井町に駄菓子屋「まんだら堂」がオープンした。店には、大人が購入した買い物券「ハートフルチケット」を子どもたちにプレゼントできる仕組みがあり、子どもは1日1枚、チケットを使って100円分の商品を購入できる。利用した親子が次の人のためにチケットを寄付する例もあり、店では善意のバトンの受け渡しが静かに続いている。
 店主の井上よし子さん(66)は地元の図書室などで司書をしていた時、駄菓子店の奥深さを紹介した本に出合った。子どもがさまざまな人と関わりながら世の中の仕組みを知る場所を、いつか自分もつくりたいと長年構想を温め今年、店をオープン。同町小川原浦の車庫兼倉庫を改装し、人気のグミやチョコレート、ようかんなどの菓子300種類、花火やシャボン玉などのおもちゃ60種類をそろえた。1回30円から遊べるくじもあり、店は子どもたちの他、懐かしさを楽しむ大人でにぎわう。「子どもだけじゃなく、私たちもワクワクすっとよ」という70代女性の言葉は忘れられない一言だ。
 同チケットを導入したのは「多くの人に来店してもらえるか正直不安だった」から。国が設置した無料の経営相談所「県よろず支援拠点」に教えてもらった、お金に余裕がある人が、自分のコーヒー代に加えて見知らぬ誰かのコーヒー代を払うイタリア発祥の善意の習慣「サスペンデッド・コーヒー」をヒントにした。
 井上さんは当初、地域の高齢者と子どもがつながる交流の場になればと思っていたが、子育て世代の利用が多いことに気付いた。「自分の子育てにもお金がかかるはずなのに、チケットの仕組みに共感してくれる大人が多いのは驚きでもあり、ありがたい」
 開店以来、6月末現在で158人からの善意が寄せられ、延べ887人の子どもがチケットを利用。チケットには大きなハート形のカードに「しあわせのおすそわけ」「みんなでなかよくつかってね」などと書かれた心温かなメッセージも添えられている。
 「自分の育った町に思いやりの気持ちを持った多くの大人がいたことを、いつか思い出してもらえれば」。井上さんは穏やかにほほ笑んだ。
 毎週水曜定休(不定休あり)。まんだら堂(電0957.34.3964)。


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