手に汗握ったファイナルラップの名バトル。関口雄飛VS平川亮、それぞれのOTS戦略/SF第8戦決勝

 モビリティリゾートもてぎで行われた2022全日本スーパーフォーミュラ選手権の第8戦決勝レースは、関口雄飛と平川亮のcarenex TEAM IMPUL同士によるチームメイトバトルで盛り上がった。特にファイナルラップでは、両者ともにオーバーテイクシステム(OTS)を使い果たすほどの攻防戦となり、90度コーナーでは接触寸前までいくバトルとなった。

 最終的に関口がポジションを守りきって、3年ぶりとなる優勝を飾ったわけだが、ふたりの間では“オーバーテイクシステムの使いどころ”を駆け引きする、ハイレベルな攻防戦が展開されていた。

■OTSを「間違えて押してしまった」平川

 6番グリッドからスタートした平川は、レース後半まで引っ張る作戦をとり、30周目にピットイン。チームがタイヤ交換を5.6秒で済ませ、コースへ送り出した。当初はサッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)の後ろあたりの復帰を想定していたとのことだが、いざピットアウトすると、2ポジション前である4番手につけた。

 そこから新しいタイヤの利点を活かし、野尻智紀(TEAM MUGEN)、牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)を追い抜き、トップを走る関口に迫った。

「(野尻選手と牧野選手を抜いた時は)タイヤが新しかったというメリットの方が大きかったです。ただ、3~4周するとタイヤのピークも落ちてきてしまうので、OTSのタイミングでいくしかない感じでした」という平川。

 2022年から試験導入されている『SFgo』のアプリによると、平川はファイナルラップに入るタイミングで、OTSを56秒残していた。それを90度コーナーで関口を仕留めるために、逆算して5コーナー付近から発動させた。

「(OTS残量の表示が)残り50数秒でした。そこから逆算してやったんですけど、難しいですね。でも、90度コーナーまでは(OTSの効果が)効いていましたし、結果論ですけど、あの時に最大限のことをしました」と振り返ったのだが、彼自身としては、その2周前のタイミングで、誤ってOTSを使ってしまったことを悔やんでいた。

「正直いうと、その2周前に関口選手が押したタイミングがあって、それで間違えて僕も押しちゃったんです。あそこで押さないでおけば、次の周で僕だけ押すことができて、スゥっと抜けたんですけど……。いつもならやらないので、やってしまったんですよね。それに対して(自分自身に)すごい怒っています」

2022スーパーフォーミュラ第7戦&第8戦もてぎ 平川亮(carenex TEAM IMPUL)

 オーバーテイクシステムは、たとえ発動時間が1秒であっても、スイッチを切ってからは100秒間の使用制限がかかってしまう。それで、数少ない“大きなチャンス”を逸してしまったのだ。

「間違えて押してしまったら、取り返しがつかないので。『あ、押しちゃった!』と思いました。あまり使わないでおこうと考えたんですけど、思ったよりも(関口選手と)近かったので、せっかく押したから『抜けるかな?』と思って、そのままいきましたが、抜けなかったですね」

 優勝は叶わなかったが、15ポイントを獲得して合計79ポイントとした平川。ランキング首位の野尻とは34ポイントの差がついているが、逆転チャンピオンに向けて望みをつないだ。ただ、そこについては特に意識をしていない様子で、「34ポイント差は奇跡が起きないと逆転できないので、そこは祈っておくだけで……とにかく自分たちのレースをして、2レースとも勝ちに行くことに専念したいです」と、平川は鈴鹿大会に向けて決意を新たにしていた。

■「5コーナーで仕掛けてくると思っていた」関口の誤算

 一方、7番グリッドからスタートして、平川とは対照的に10周目のタイミングでタイヤ交換を済ませる戦略を採った関口。本来なら、ピットアウト直後の周囲がクリアな場所でペースを上げていく狙いがあったが、ピットストップを終えていない後方集団が目の前に現れ、オーバーテイクしながらペースを上げていく展開を強いられた。

「これは作戦失敗だなと思った」という関口だが、ピットストップ直後でタイヤが新しかったこともあり、ペースの差でオーバーテイクを決めていった。

「自分の方が速くて、思ったよりも(相手と)ペースの差があったから抜けた感じでした。OTSも使いながら抜いていったんですけど、そこで少し使いすぎて、平川選手との直接対決では残りの秒数が少ない状態でした」

 そう話すとおり、こちらも『SFgo』のアプリで確認したところ、ファイナルラップに入る時点で、関口のOTS残量は43秒だった。これをメインストレートに入ったところで使用し、5コーナーでのバトルに備えたのだが、結果的に失敗だったという。

「結果論ですけど、あれは(押したタイミングが)ちょっと早かったです。バックストレートに入った時点で僕は弾切れ(残量0)になってしまっていて、平川選手は90度コーナーまで使えている状態でした」

「僕は5コーナーで仕掛けてくると思ったいたので、本当なら3コーナーの立ち上がりで押せば大丈夫だったんですが、その前で押してしまいました。(平川選手のOTSが)僕より10秒多く残っているのは聞いていたので、逆算しておしたつもりだったんですけど……あれは失敗でした」

2022スーパーフォーミュラ第7戦&第8戦もてぎ 関口雄飛(carenex TEAM IMPUL)

 実際には、ファーストアンダーブリッジを過ぎたあたりで、残量0となった関口は、OTSが使えている状態の平川を90度コーナーで迎え討つことになるのだが、抑え込む自信はあったと語る。

「(OTSがなくても)相手を抑え込むのは得意でしたし、向こうの方がタイヤは良い状態でしたけど、ブレーキングもとことん付き合っていこうと決めていました。ただで順位を明け渡すようなことはしたくなかったです。ブレーキング勝負で止まれたらラッキーですし、もし止まれなかったとしても、それは仕方ないかなと思います。それは、どんな状況でも心に決めていました」

 ピットストップのタイミングだけでなく、オーバーテイクシステムの使用タイミングまで駆使して、バトルを繰り広げたふたりだったが、最後は意地と意地のぶつかり合いとなり、関口がわずかに上回って、勝利を収める結果となった。

 いつもは、オーバーテイクの機会が少なく“抜けないコース”と言われがちなもてぎだが、タイヤのピークグリップやOTSをうまく活用することで、多くのファンを魅了するバトルが展開されたことは間違いないだろう。

2022スーパーフォーミュラ第7戦&第8戦もてぎ 関口雄飛(carenex TEAM IMPUL)

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