表彰台まであと一歩の琢磨。今季ベストリザルトもピットタイミングを悔やむ「あの1周のミスは大きかった」

 NTTインディカー・シリーズも終盤戦に入り、チャンピオン争いも6人のドライバーが鎬を削って目を離せなくなってきた。

 第15戦の舞台となるのは、ミズーリ州とイリノイ州の境にあるワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ(WWTR)。かつてはセントルイスやゲートウェイと呼ばれたが、今はWWTRと呼ばれるショートオーバルのトラックで今年最後のオーバル戦となる。

 デイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシングの佐藤琢磨にとっては、シリーズの中でいちばん相性が良く好成績を残しているコースだと言える。

 2019年の優勝、2020年も2位と2年連続で表彰台を獲得している。今年苦戦が続く琢磨とチームにとっては、絶好の挽回の機会だ。

 今年も2デイのスケジュールで行われ、琢磨はフリープラクティスの1回目を9番手で終える。前戦のナッシュビル後、モノコックを入れ替えたマシンのフィーリングも良く、上々のスタートだった。

 予選ではシリーズポイント順のアテンプトとなるため、比較的早く出走順が回り気温がかなり高い状況での走行だったが8番目に登場して2周平均で180.048mphをマーク、その時点でトップに躍り出た。

 以後しばらく琢磨のタイムを上回るドライバーが現れなかったが、やや気温が下がって来ると、そのタイムを上回るスピードで走り始め、最終的に琢磨は4列目8番手のグリッドを手に入れた。

 ちなみに今年のオーバルの予選ではテキサス3番手、インディ500が10番手、アイオワが4番手と9番手、そして今回が8番手とすべてトップ10内。ロード&ストリートでQ1突破に苦戦していることと比べれば段違いの安定感。オーバルマイスターに相応しいマシンの仕上がりを見せる。

 土曜日のレースは17時30スタートのいわゆるトワイライトレースとなっていたが、前日から雨の予報があり、スタート時間を30分繰り上げての開始となった。

 レーススタートではポールのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が好スタートでレースをリード。琢磨はアロウ・マクラーレンSPのパト・オワードと順位を前後したが7番手に落ち着いた。

 レース戦略では260周のレースで3回ないし、4回のピット作戦が想定されたが、琢磨はこの時から燃料をセーブして来るべきタイミングに備え始めていた。

 最初のピットは58周目に入り、7番手で戦列復帰。絶対王者チップ・ガナッシのスコット・ディクソンの背後にずっと着けていたが、93周目に攻略し6番手に。

最初のルーティンピットを行う佐藤琢磨
スコット・ディクソンを交わす佐藤琢磨

 すると今度は103周目に上位陣の誰よりも早くピットに入った。

 今日は絶対アンダーカットを成功させたかったという琢磨は、積極的に動くと、アンダーグリーンで一時18番手まで落ちるものの、ライバルの2度目のピットインが始まると、どんどんとポジションを上げて、127周目にはトップに立った。

 これは作戦成功だった、リスキーでもあったが、ピットアウトしてきたポジションも良く、さらにプッシュして走った効果も絶大だった。

アンダーカットを成功させトップに立つと大きくリードを広げる佐藤琢磨

 レースも半分を過ぎて琢磨はトップをキープしていたが、145周目にレイホール・レターマン・ラニガンのジャック・ハーベイがウォールにヒットし、最初のイエローコーションとなる。ここで問題が起きた。

 琢磨はピットボックスにどうする?と聞くが、ピットもステイアウトか否か、すぐに答えを出すことができず、入れ!と呼んだ時にはすでにピットの入り口を過ぎていた。

 次のラップでピットに入ったが、ポジションをまたもや8番手まで落とす結果となってしまった。この一周の判断が、レース結果を大きく左右してしまうことになる。

 レースがグリーンになると今度はギリギリまでピットインを引っ張ってポジションを上げ6番手となった。ただこのスティントはタイヤの内圧設定が少し間違っていたのか、ペースが上げられない。

 残りあと50周となったあたりから、風が強くなりポツポツと雨も落ち始め、イエローコーションが出た後にレッドフラッグが提示されて一時中断となった。

 雨は一時的だったが路面を乾かす時間もあり、およそ2時間10分の間中断。レースコントロールは、21時からレース再開を決定し、最後の43周を戦うレースが始まった。

 6周のイエローコーションの後にレースは再開。インターバルが長く気温、路面温度も下がったためにマシンのフィーリングが変わったようだが、琢磨は230周目にウィル・パワーをパス!

 だが、その後にラップ遅れのシモン・パジェノーに数周もブロックされ、5番手だったデイビット・マルーカスにも逃げられてしまい、オワードの背後に着くのがやっと。

 ここでレースがチェッカーとなり、琢磨は5位でフィニッシュし今季最高位となった。チームメイトのマルーカスは勢いに乗って2位入賞。デイルコインの2台がトップ5に入るというレースだった。

レース後、ピットへと向かう佐藤琢磨

「アンダーカットの作戦もうまくいって、これからという時に、ピットに入るあの1周のミスは大きかった。勝ったジョゼフ・ニューガーデンは、僕の後にいたんですが、あの周に入ってうまくいった。僕も入っていれば当然トップのまま戻ってレースができたはず‥‥」と琢磨。

 勝てた確証はないまでも、表彰台は見えていたレースだっただけに落胆と失望も大きい。

 残るは西海岸ポートランドとラグナセカの2レースのみ。琢磨はその前にラグナセカのテストに参加してから、ポートランドに入る予定だ。

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