<長崎市性暴力訴訟> 専門家に聞く 被害申告できる社会に 齋藤氏/法整備の議論に影響も 納田氏

写真左から 判決は強い注意喚起になると強調する納田さん、判決は被害者の後押しになると語る齋藤准教授

 女性記者が長崎市元幹部(故人)から取材中に性暴力を受けたとして市に賠償を命じた長崎地裁判決を受け、田上富久市長が女性に謝罪してから1カ月が過ぎた。性暴力や2次被害について市の責任を指摘し、女性に落ち度はなかったと認めた判決は、社会にどのような影響を与えるのか。専門家に話を聞いた。
 判決は、女性が「拒否しがたい立場」にあり、元幹部が「関係性に乗じ」加害に及んだと認めた。目白大心理学部の齋藤梓准教授(心理学)によると「地位関係性がある中での性暴力はとても多い」。地位関係性とは上司と部下、教師と生徒、雇用主と被雇用者、そして取材先と記者のように社会・経済的に上下関係がある間柄を指す。
 地位関係性の中では被害を防ぐことが難しい。加害者側が被害者側の生活や将来に対する影響力を持ちやすいためだ。性被害の告発が相次ぐ映画界を例に取ると、制作側はキャスティングを握っている。人生を左右されかねない俳優側は抵抗しづらくなってしまう。

長崎地裁の判決を受け、「勝訴」と書かれた紙を掲げる女性記者の支援者ら=5月30日、長崎市万才町

 さまざまなケースに当てはまる今回の判決。被害者が相談したり法的手段を検討したりする後押しになる可能性がある。「被害者は『どうせ信じてもらえない』『自分が悪いと言われるのでは』と不安が大きい。こうした例が増え、安心して被害申告できる社会になってほしい」と述べた。
 判決が法整備の議論にも影響を与えうると指摘するのは、性暴力被害者でつくる一般社団法人「Spring」(東京都)の幹事、納田さおりさん。現在、国の法制審議会では性犯罪の規定を巡る議論が進む。焦点の一つは、地位や関係性を悪用した性行為を盛り込むかどうか。「(判決が)自己責任論でなく、女性に過失はないと言い切った意味は大きい」と強調する。
 市に2次被害を防ぐ注意義務があったと認めた点についても「何か起きると組織を守ろうという力学が働くが、2次被害を予見し、公平な立場を貫くべきと示した」と評価した。
 市は控訴を断念し、対策に取り組むと宣言。7月13日の市長の謝罪を受け、女性側は「本当の意味での解決」と歓迎した。納田さんは「市長の判断を支持したい」と評価。一連の出来事は行政機関の危機管理に影響を与えるとし、「あらゆるハラスメントに対する強い注意喚起になる」と意義を語った。


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