貝の伏魔殿

 財産の「財」、賃貸の「賃」に「貸」と、お金にまつわる漢字の多くに「貝」が含まれる。昔、貨幣に使われたためらしい。近頃は「受託収賄」「贈賄」と、貝の文字をやたらと目にする▲紳士服大手から、東京五輪・パラリンピック組織委員会の“大物”へ。渡った多額の資金は、スポンサー契約などに便宜を図った見返りとみられている。賄賂を贈り、受け取ったとされる側がともに逮捕されたが、カネの流れはずいぶん込み入っているらしい▲その大物、組織委の元理事はスポーツビジネスの第一人者と呼ばれる。広告大手出身で、数多くの企業に顔が利き、人脈をフルに生かす。“暗躍”ぶりを「伏魔殿」に例える関係者がいた▲「陰謀、悪事がなされる根城」の意味が伏魔殿にはある。貰(もら)う、貪(むさぼ)る、贔屓(ひいき)にする…。根城には無数の貝が“生息”していたらしい▲2030年冬季大会の開催地は札幌市が本命視されている。「アスリートファースト」「平和の祭典」の呼称に運営側、協賛する側が傷を付けるのは、もう終わりにしたい▲「責」という字は「朿(とげ)」と「貝(財貨)」でできている。とげで刺すように伏魔殿の住人のたくらみを問いただすこと。誰かの暗躍を許さない「仕組み」を形づくること。スポーツの祭典を担う立場に重い「責任」がある。(徹)

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