金利が高い外貨建て金融商品での運用は本当に有利なのかを考えてみる

外貨投資でよくいわれるのが、「日本に比べて海外の方が、金利が高いので有利に運用できる」という話。果たして本当なのでしょうか。


年39.39%の利回りが実現

時々、とても魅力的な金利の外貨建て金融商品を見つけることがあります。このコーナーを読んで下さっている方は、恐らく資産運用に対する関心が高いと思いますから、なおのこと、このような情報に対してセンシティブに反応するのではないでしょうか。

たとえば、このコーナーでも以前、取り上げたことがありますが、トルコリラ建ての債券などはその典型例といえるでしょう。最近、オンライン証券会社を通じて売り出されているトルコリラ建てゼロクーポン債の利回りは、償還まで約5年間で年39.39%です。

約40%もの収益が得られるというのですから、注目しないわけにはいかないでしょう。何しろ日本の預貯金金利は年0.001%でしかないのですから。あまり意味のないたとえですが、「トルコリラ建て債券の利回りは、日本の預貯金利率の4万倍」にもなるのです。

これは、この債券を売り出している証券会社のサイトに書かれているのですが、約5年間で外貨ベースの投資金額がおよそ5.2倍になって戻ってくるそうです。

5年間で5.2倍。下手な株式に投資するよりも投資効率が高いかも知れません。

9年間で87%減価する通貨

でも、そんなにおいしい話だったら、誰でも投資するはずです。債券の場合、大勢の投資家が一斉に飛びつき買いをしたら、債券価格は値上がりするので、その分だけ利回りが低下します。

つまり、年39.39%もの利回りが提示されているということは、それだけ、この債券に対する需要が少なく、結果的に高利回りになっているだけと考えることができるのです。

では、どうしてここまで利回りが高いのに、人気がないのでしょうか。

それはトルコリラという通貨の持つリスクが嫌気されているからです。これは、トルコリラ/円の為替レートをたどると一目瞭然です。2013年7月時点のトルコリラ/円は、1トルコリラ=57円前後でした。それが2022年8月時点では、1トルコリラ=7.4円前後で推移しています。この9年間で、トルコリラは円に対して87%も減価したことになります。

もちろん年39.39%だから、あくまでもトルコリラ建てではありますが、5年間持ち続ければ、利回りだけで200%近いリターンが実現します。

だとすると、さらにこれから先、トルコリラが対円で87%減価し、1トルコリラ=0.96円になったとしても、十分にリターンが得られるのではないかとも考えられるのですが、他の問題も生じてきます。

それは、トルコリラ・ショックのような通貨危機的状況に陥り、トルコリラがほぼ無価値になるリスクがあることです。

実質金利に注目する

なぜ、金利が高いのに、為替がこれだけ減価しているのかというと、トルコの歴史的な物価上昇にあります。2022年7月時点の消費者物価指数の前年同月比は79.6%です。トルコの政策金利は年14%ですから、名目金利から物価上昇率を差し引いた実質金利は、▲65.6%にもなります。

つまりトルコリラを保有していると、1年でその価値が65.6%も目減りするのです。このような通貨を喜んで保有する投資家はいないでしょう。結果的にトルコリラは外国為替市場で売り叩かれ、トルコリラ安に歯止めがかからなくなっているのです。

いくら表面的な利率が高くても、インフレが激しく、物価上昇率を加味した実質金利が極端に低い国の通貨は売られ続けます。

その先にあるのは通貨の破綻です。かつて壮絶なインフレによって流通廃止になった通貨がありました。アフリカのジンバブエがそれです。

ジンバブエではジンバブエ・ドルという通貨が発行されていました。最初の発行は1980年で、当初の為替レートは1米ドル=0.68ジンバブエ・ドルでした。

ところが2000年から国内情勢の不安でインフレが起こりました。その詳しい背景については省略しますが、インフレ率の推移を追うと、2000年が56%、2003年が385%、2006年が1281%、そして2008年には35万5000%という、想像を絶するハイパーインフレに見舞われたのです。結果、2009年には100兆ジンバブエ・ドルが発行されるまでになりました。

欧州大国のひとつであるトルコの経済が、ここまで悲惨な状態に陥ることなど想像したくありませんが、今のトルコのインフレ率を見て、ハイパーインフレの一歩手前まで来ているように感じるのは、私だけではないでしょう。

為替レートの変動で儲けようとしないこと

このようにトルコリラは、表面上の金利が高いからといって、必ずしも有利なリターンにつながるわけではないことを示すための好例ですが、為替レートの決定理論としては、「金利平価説」や「購買力平価説」、「貨幣数量説」などいろいろあります。

「金利差で外貨投資することが必ずしもリターンにつながるわけではない」というのは、金利平価説に基づいた考え方で、国内通貨を保有していても海外通貨を保有していても、将来的な実質価値は同じになると仮定し、より金利の高い国の通貨は減価すると考えます。

この説に則っとると、結局のところ金利差に注目して、より高い金利の外貨建て金融商品を購入したとしても、最終的には為替レートで調整されるので、金利差分の儲けは取れないことになります。

たとえば現在のドル円が1ドル=130円で、米国の政策金利が2.50%、日本の政策金利が0%の場合、

130×(1.00/1.025)=126.82

という計算式が適用され、より金利が高いドルは、日米金利差分だけ減価します。前述したトルコリラは、まさにこの金利平価説に則った形で、減価し続けているのです。

ちなみに、為替先物予約を用いて為替変動リスクをヘッジする際の、先物レートは、国内外金利差によって決定されます。その意味では、金利平価説は、外国為替取引の実務にも活かされているのです。

ただ、これはあくまでも理論上の話であり、為替レートの決定要因は他にもたくさんあります。それをひとつずつひも解いて将来の為替レートを推測し、リターンにつなげるのは困難です。

そのうえ、外国為替レートは多分に市場参加者の心理によって変動する部分もあります。市場参加者の心理を的確に読み取ることなど、まず不可能なので、その意味でも海外投資をする際には、為替レートの変動に損益を大きく左右されるようなものは避けるべきなのです。

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