「長崎の鐘」露語の本に 米在住のロシア人男性翻訳 「小さな一歩 核廃絶まで」

ロシア語で初めて製本化された「長崎の鐘」。タイトルは「コロコル ナガサキ」(トゥルチンスキーさん提供)

 被爆医師の故永井隆博士が原爆で破壊された長崎の街や死傷者の様子を記録した「長崎の鐘」が、初めてロシア語の本になった。翻訳したロシア人医療研究者のマルク・トゥルチンスキーさん(米国在住)は、母国のウクライナ侵攻で核危機が高まる中、「永井先生の核兵器廃絶運動の一員になれて喜ばしい。翻訳は小さな一歩だが、廃絶まで関わり続ける」と語る。
 長崎の鐘は1949年刊行。永井博士は、爆心地近くの旧長崎医科大付属病院で被爆しながらも負傷者を治療し、そこで見た様子などを詳しく記した。既に英語やスペイン語、中国語など9言語に訳されている。

マルク・トゥルチンスキーさん(本人提供)

 トゥルチンスキーさんは2018年に長崎を旅行した際に永井博士の功績を知り、英語版をロシア語に翻訳し始めた。製本化に先立ち、今春には電子書籍サイトで公開。日本の出版社や長崎市永井隆記念館(上野町)との調整などを長崎大の高橋純平助教が担った。
 電子版は既に2300人以上が購入し、好意的なコメントが多く寄せられているという。トゥルチンスキーさんは「予想を上回る関心がロシア語読者の中にあった。(核戦争などによる人類滅亡を午前0時に見立てた)『終末時計』が真夜中に近づき、核問題への不安が高まっている。永井先生の言葉が胸に響いているのでは」と話す。
 ロシア語版の本は今秋以降、ロシア語圏の日本語センターや図書館、永井隆記念館などに配る予定。トゥルチンスキーさんは「ロシア語をしゃべる人は世界に約3億人いる。その人たちに永井先生を知る機会が与えられることには大きな意義がある」と期待を込めた。


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