開業まで29日

 「10時打ち」という言葉を初めて聞いた。目当ての日の1カ月前、JRの窓口で乗車券の前売りが始まる午前10時ちょうどに、駅員や旅行会社の職員が端末の発券ボタンを押すことをいうらしい▲早過ぎると受け付けてもらえず、遅過ぎるのは論外。完売までの時間は10秒だったというから、文字通り秒単位の争奪戦だ。9月23日に開業する西九州新幹線、一番列車の指定席券が一昨日発売された▲長崎から博多へ行くのに途中で列車を乗り継ぐ新幹線はどんな未来を乗せて走るのか、誰が乗るのか、本当に乗るのか…期待の一方で、不安や疑念がどうしても消えない。だからファンの熱意がうれしい。新しいレールへのエールに思える▲「10時打ち」は全国各地の駅で試みられた可能性が高い。鉄道の線路が、決して沿線の自治体や鉄道会社だけの物でなく、乗る人全ての“公共財”であることを改めて思う。そのことは「佐賀県の説得がカギ」という文脈でばかり語られがちな将来構想にも別な視点を与えてくれそうな気がする▲争奪戦に敗れたファンが気丈に語ったそうだ。「まだ自由席があります」。首都圏の通勤ラッシュ並みの混雑も予想される▲「密」がちょっぴり心配だ。でも、その心意気が心強い。本紙の題字下のカウントダウンは「29」になった。(智)


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