日本はIT後進国? 主不在の官邸詣で オンライン第一声は「見えますか?」

岸田文雄首相(資料写真)

 新型コロナウイルスに感染した岸田文雄首相は26日までの平日に5日連続で療養先の公邸でテレワークによる公務をこなした。その一方で、首相は留守の官邸へ足を運ぶ閣僚や官僚は引きを切らない。SNS上では「デジタル化の意味がない」との疑問も広がるが、政府側は「セキュリティーが大事」(関係者)。省庁などとのリモートは行わない意向で、主不在の官邸詣(もう)でが週明けも続きそうだ。

 「総理、見えますか?」「見えますよ、見えますよ」。岸田首相は23日、特産の高級ブドウ「ルビーロマン」を官邸へ持参した石川県の馳浩知事と冒頭に会話を交わした。公邸からの中継モニターにはブドウが映っていない。馳知事からの「総理の手元にございますか」との確認に首相はブドウを持ち上げ、「いただいております」と応じる心遣いを見せた。

 「やはり第一声は『見えますか』だよね」。今週、官邸の総理執務室での打ち合わせに参加した省庁関係者は首相と知事のやりとりを巡り付言した。モニターは執務室内のふだん総理が座る位置に置かれ、画面を通じてやりとりが行われているという。「総理からこちらがどう見えているかは分からない」ため「発言者は冒頭にきちんと名乗るよう申し合わせている」としている。

 記者会見も官邸内の会議室に集められた記者とモニター越しのやりとりだ。その中で首相は「自分がコロナに感染するという事態も想定して職務を継続できるよう、官邸と公邸との間に光ファイバーによる専用会議システムを整備させて万が一の場合に備えてきた」と説明した。関係者の話を総合すると、回線は官邸と公邸の間でのみつながっている。インターネットには接続されておらず、リモート会見などは行えない。

 コロナ禍を契機に対面重視を見直して感染拡大を防ぎ、併せて仕事などの効率化を進めることが菅義偉政権以降の政策目標だった。立憲民主党の中谷一馬デジタル政策PT座長(衆院比例南関東)は「これまでの取り組みとの整合性がとれていない。国の行政の司令塔である官邸にデジタル・リテラシー(知識や行動体系)がないとは驚きだ」と批判。「日本がIT後進国という誤った印象を与えかねず看過できない」として臨時国会などでただしていく構えだ。

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