「危機的状況」 長崎の被爆者 失望、そして決意 NPT 再び決裂

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が7年前の前回に続き、最終文書を採択できず決裂したことを受け、長崎の被爆者らは27日、一様に「残念」「危機的状況」と失望をあらわにした。一方で交渉過程を今後に生かすよう求める意見や、被爆地として「核なき世界を諦めず訴える」と決意の声も上がった。

 最終文書に反対した核大国ロシアはウクライナ侵攻を巡り、欧米と対立を深めた。県平和運動センター被爆連の川野浩一議長(82)は「核兵器廃絶の見通しが一層不透明になり、焦りを感じる」と危機感を募らせる。それでも「広島、長崎の惨状がまだ世界で知られていない。世界の指導者に来てもらうだけでなく、若い人を中心に世界に出て実相を伝えなければ」と被爆地の役割を強調した。
 再検討会議に参加した県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長(79)は、利害が一致していた核保有国同士の“秩序”が、ウクライナ侵攻で崩れたと指摘。「核の威嚇をするロシアが一方的に主張し、批判は骨抜き。会議の運用に限界が来ている」とみる。次回以降、NPTが昨年1月発効の核兵器禁止条約と補完し合う、新たな核軍縮の枠組みが必要とした上で、日本政府に対し「核抑止論をいかに克服していくのか、保有国や非保有国、NGO(非政府組織)、学者がとことん話し合う場を提供してほしい」と求めた。
 長崎大核兵器廃絶研究センターの吉田文彦センター長は、再検討会議の交渉過程に注目する。核保有国に対する「核の先制不使用」政策の提案や、非保有国を核攻撃しない「消極的安全保障」の法制化に向けた動きなど、「非保有国側から大事な、強いメッセージが出された。今後、国連総会などでどう生かすかが(核軍縮の動きを)好転させるかどうかのポイント」と説明。最終文書案には「核兵器は二度と使われてはいけない」などと、これまでの被爆地の訴えも反映されているとして「共感してくれた国と連携し、国際社会の声として打ち出していくことが大事」とした。
 再検討会議を傍聴した「ナガサキ・ユース代表団」の一員で、長崎大2年の猪原彩美さん(19)は「現地では会議が開かれていると知らない一般市民もいた。核兵器が実際に使われたらどうなるか。一人一人の問題として考え、行動していくことが大切」と市民社会の関心を高める努力を続ける決意を新たにした。
 大石賢吾知事は「被爆地の願いが採択につながらず非常に残念」とコメントを発表した。

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