幻の被爆地

 「小倉市」の地図は、市街地あたりが赤い同心円で覆われている。もし小倉に原爆が投下されていたら-と被害を想定した図だ。死者は5万7千人に上り、5人に2人が命を落としたことになる、との説明がある。この春、北九州市小倉北区に開館した「平和のまちミュージアム」を訪ねた▲JR西小倉駅に近い勝山公園に市が設置した平和施設。ここにはかつて、西日本最大級の兵器工場「小倉陸軍造兵廠(しょう)」があり、長崎に落とされた原爆の第1投下目標になっていた▲「上空からの視界不良」といった理由で運命を分けた歴史の事実がどんな形で紹介されているのか、一度見ておきたかった▲「原子爆弾の投下目標だった小倉」と題するスペースに目的の展示はあった。米国がどうやって投下目標の地を選んだのか、長崎の惨状は…、資料も添えて丁寧に解説している▲終戦翌年、小倉市長が発表した声明文が目を引いた。「身代りになった長崎市民の上に、痛悼(つうとう)を捧(ささ)ぐると共に、同情と隣保相扶(そうふ)の赤誠を以て復興協力に~」。隣保相扶は「隣人との助け合い」、赤誠は「真心」のこと▲この地もまた「8.9」が復興、平和希求の原点になっている。ロビーでは被爆者の証言映像が流れ、園内には慰霊碑も。被爆地の思いを共有する街が、市民が、もっともっと増えるといい。(真)

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