成長を見せるインディカーのルーキーたち。ルンガーとマルーカス、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを勝ち取るのは?

 2022年のインディカー・シリーズにルーキーとして参戦しているデイビッド・マルーカス(デイル・コイン・レーシング・ウィズHMD)が第15戦ボマリート・オートモーティブ500で2位フィニッシュ!

 しかも、レース終盤にウィル・パワー(チーム・ペンスキー)、パト・オワード(アロウ・マクラーレンSP)といったオーバルで実績のある強敵をパスし、最終ラップにスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)を豪快にアウトから仕留めての2位で、集まった観客を大いに沸かせた。

 ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ(通称ゲートウェイ)は彼の出身地シカゴと同じイリノイ州。ホームコースでスーパーパフォーマンスを見せてキャリア初の表彰台に上った。

観客の声援に応えるデイビッド・マルーカス

 インディアナポリスのロードコースで行われた第13戦ギャラガーGPでもルーキーが2位でのフィニッシュを記録している。デンマーク出身のクリスチャン・ルンガー(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)だ。

 その時点でルンガーの獲得ポイントは248点まで伸び、マルーカスに27点の差をつけることとなったが、ゲートウェイでの2位フィニッシュでマルーカスが差を11点に縮めた。

初表彰台獲得を喜ぶクリスチャン・ルンガー

 残るはあと2レース。彼らがポートランドとラグナセカの常設ロードコースでもう一度表彰台に上る可能性は決して高くはないが、ふたりともしぶとく、ミスなくゴールまで走り切ることが持ち味のドライバーだけに、今年のルーキー・オブ・ザ・イヤー争いは最終戦まで熾烈に戦われることとなる。

 ルンガーは地元ヨーロッパでF2を戦い、アルピーヌアカデミーの一員となったがF1チームに抜擢されず、昨シーズン中にインディカーにテスト参戦。今年からRLL入りを果たした。

 マルーカスは2021年のインディライツで7勝をマークしてランキング2位となり、デイル・コイン・レーシングでインディカーへとステップアップ。

 どちらのチームも現在のシリーズをリードするトップコンテンダーではないが、彼らには頼りになるチームメイトがいる。

 ルンガーはわからないことがあったらチームの中心であるレイホールに尋ね、多くのアドバイスを得て急成長をしてきた。一方のマルーカスには佐藤琢磨がおり、エンジニアとのブリーフィングからマシンのセッティング理論までを手本としている。

 マルーカスもルンガーも冷静かつクレバーなレース運びができるドライバーであり、初シーズンを戦う中で経験を積み重ねてレベルアップをして果たしてきている。

 ルンガーは2023年もRLLで走ることが決定。まだ21歳だ。チームのレベルアップ次第という面もあるが、初勝利にかなり近い位置にいるドライバーと見ていいだろう。

 20歳のマルーカスは父親の所有するHMDモータースポーツとデイル・コイン・レーシングのジョイントチームで走ってきたが、来年はアレックス・パロウが抜けるチップ・ガナッシ・レーシングに移籍することになるかもしれない。そうなったら一気に優勝争いに近づくことができるだろう。

 マルーカスが抜けた場合、そのシートにはHMDモータースポーツ・ウィズ・デイル・コイン・レーシングからの出場で今年のインディライツチャンピオンとなるであろうスウェーデン出身のリヌス・ルンドクヴィストが収まるとみられる。

インディライツでランキング1位を独走するリヌス・ルンドクヴィスト

 ドライバーとしてのポテンシャルとすれば、イギリス出身の23歳、カラム・アイロット(フンコス・ホリンジャー・レーシング)も非常に高いものがある。

 フェラーリドライバーアカデミーの一員として現在も契約が続いている彼は、現役のアルファロメオF1チームのリザーブドライバー。しかし、彼にはシングルカーエントリーという決定的な不利がある。

 多くのサーキットで走行経験がない上に、セッティングを分担して進めていくことができないのだから厳しい。置かれた状況の割には好パフォーマンスを見せている、と評価するしかない。

予選で持ち前の速さを見せるカラム・アイロット

「来シーズンは2カー体制にしたい」とチームの共同オーナーであるリカルド・フンコスは言っている。アイロットはこのチームで来年も走ることをすでに発表しているが、2台目を走らせるためのスポンサーだけでなく、優秀なエンジニアやクルーの確保も難しいのが現在のインディーカーシリーズであり、来年もシングルカーで……となる可能性も十分考えられる。

 昨年のインディライツで10勝を挙げてチャンピオンとなったカイル・カークウッド(AJ・フォイト・エンタープライゼス)もアイロットと同様で潜在能力は高い。

 年齢もアイロットと同じ23歳。ドライバーの実力がものをいうストリートで好走を見せてきているカークウッドだが、経験豊富なチームメイトがいないためにルーキーイヤーに多くを学びとることに苦労している。

 フォイトにはチームメイトがいるものの、それは経験も実績も少ないダルトン・ケレットと、ルーキーでアメリカでのレース経験もないタチアナ・カルデロンで、彼女はシーズン途中からスポンサーの都合で参戦を取りやめてしまった。

 カークウッドはシングルカーエントリーと変わらない体制で戦ってきているのだ。彼にはアンドレッティ・オートスポートで走る来年からの走りに期待をしたい。

厳しいルーキーシーズンとなったカイル・カークウッド

 デブリン・デフランチェスコ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート)というイタリア系カナダ人のルーキーは、インディライツでほとんど成績を残せていないというのに1シーズンを経験しただけでインディカーへと上がってきた。

 このステップアップは心配された通りに時期尚早で、チーム・ペンスキー、チップ・ガナッシ・レーシング、アロウ・マクラーレンSPの下ぐらいに現在位置しているアンドレッティからの参戦でも目立った走りを見せることができていない。

 また、経験不足だけが原因とは思えないトラブルメーカーともなっている。チャンピオン争いをしているドライバーにぶつかっていったり、バックマーカーの身でトップコンテンダーに道を譲らなかったり……。

 大量のスポンサーマネーを持ち込んでのシート獲得だったと言われるが、来シーズンもアンドレッティに残れるかは微妙になっている。彼が現チームに残留できない場合、同じカナダ出身のケレットのいるフォイトぐらいしかシートに空きはない。

 残り2戦となったインディカー・シリーズ。白熱するチャンピオン争いと共にルーキーたちの走りにも注目だ。

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