稲盛和夫さん逝く

 電気通信事業への参入に際して、自らに繰り返し問い続けた言葉が広く知られている。「動機善なりや、私心なかりしか」。自分の名を残そうという功名心はないか、国民の利益のために、という動機に曇りはないか▲1959年に創業した京セラを一代で世界的企業に育て“ベンチャーの神様”と呼ばれた稲盛和夫さんが亡くなった。惜別の声が内外で広がる▲「人生とは『今日一日』の積み重ね。『いま』の連続にほかならない」「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」「常に明るさを失わず努力する人には、神はちゃんと未来を準備してくれます」▲経営哲学の数々を書き連ねるだけで、この欄が埋まってしまいそうだが、実は自身で「なんと運のない男なのか、と情けない思いでいた」と振り返るほど、失敗続きの青春時代を送っている▲旧制中学の受験には2年続けて不合格、大学入試でも第1志望だった医学部には進めなかった。大学卒業時は不況で就職難、入った会社は赤字続きで給料の遅配が常態化していた。そこから切り開いた人生▲若者たちに向けた言葉や視線が熱く、厳しく、どこか温かいのは、きっとそのせいだ。こんな言葉も見つけた。「自分の好きな仕事を求めるよりも、与えられた仕事を好きになることから始めよ」(智)

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