【#あちこちのすずさん】飢えでトカゲやヘビも食べた 父を苦しめた抑留の記憶

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを、ことしも紹介していきます。

(女性・70歳)

 父は1943年、20歳で召集された。詳しい経緯は不明だが、45年11月にインドネシアのレンバン島へ捕虜として部隊とともに送られた。熱帯雨林で飢えとマラリアに苦しみ、復員証明書によれば翌年5月、帰国した。

 その抑留時代の想像を絶する体験を語ることはほとんどなかった。ごくまれに飲めぬ酒を口にした勢いで、幼い兄と私に話すことがあった。

 靴下をほどいて釣り糸にした。当初は豊富だった果物や木の実を食べ尽くすとトカゲやヘビも食べた。毒と分かっている物も口にし、下痢や嘔吐(おうと)に苦しむ人を看病する体力もなく、穴に寝かせておくだけ。

 「俺はもうダメだ」と言った者は翌朝必ず亡くなっていた、生きる気力がうせると死んでしまうのだと。赤い顔で語る父の表情も話も、私にはただただ怖かった。

 79歳で父は緊急入院して半年後に亡くなった。病床で突然敬礼し、大声で叫ぶこともあった。戦争体験は父の胸中でずっと孤独に巣くっていたのかと涙が流れた。その胸中をしかと聞けぬままだったことが深く悔やまれる。

© 株式会社神奈川新聞社