マクラフランが王者争いに踏みとどまる3勝目。琢磨はペナルティが響く/インディカー第16戦ポートランド決勝

 ポートランド・インターナショナル・レースウェイで開催されたNTTインディカー・シリーズ第16戦。4日に行われた決勝レースは、ポールポジションからスタートしたスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)が勝利し、今シーズン3勝目を挙げた。

 佐藤琢磨(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシング)は、終盤のペナルティも響き追い上げ届かず18位でレースを終えた。

 セントルイス郊外での第15戦を終えた後、西海岸のポートランドまで遠征して事前テストを行ったチーム・ペンスキーが予選でトップ3ポジションを占め、レースでも1-2フィニッシュを飾った。

 勝ったのはペンスキーで最も若いドライバー、ニュージーランド出身の29歳、スコット・マクラフランだった。彼は今シーズン3回目、そしてキャリア3回目のポールポジションを獲得し、レースでは先輩チームメイトのウィル・パワーに付け入る隙を一切与えないまま110周を走り切った。

ポール・トゥ・ウインでフルポイントの54ポイントを稼いだマクラフラン

 これで今シーズン3勝目。そして、キャリアでも3勝目。ロジャー・ペンスキーの眼力は正しかった。まだインディカーへのフルシーズン参戦は2年目のマクラフランだが、彼は近い将来にチーム・ペンスキーを背負って立つドライバーとしてチャンピオン争いを繰り広げ、インディ500でも優勝を争うことになるだろう。

「最初のスティントでマシンがあまり良くないと感じ、周回を重ねるにつれて悪くなっていく印象すらあったが、マシンの良さを引き出し、弱い面を強さに変えられるように努めて走っていた」とマクラフラン。

 完璧ではないマシンで後続を突き放してのトップ独走を続けることが彼にはできていたのだ。

マクラフランの活躍にご満悦のロジャー・ペンスキー

「その結果、今週の自分たちが掲げていた目標通りのパフォーマンスを発揮し、望んでいた結果を手に入れることができた。最多ポイントを獲得し、チャンピオン争いに踏み留まる。それが達成されたんだ」

「自分たちがチャンピオンになる可能性は決して大きくはない。それはわかっている。しかし、可能性が残されていることこそが重要なんだ。チャンピオンになる可能性を持ってラグナセカに向かうことができる。そのレースを今から僕はとても楽しみにしている」とマクラフランは語った。

 チャンピオン争いを行うチームメイトふたりとデータをシェアして走りながら、彼らを上回るパフォーマンスを見せるケースが増えてきているマクラフラン。最終戦のラグナセカは、彼にとっては来シーズン以降のチャンピオン争いに向けて貴重な経験を積むレースウイークエンドになる。

 パワーはスタート直後、3番手グリッドからダッシュしたクリスチャン・ルンガー(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)にパスされた。それが大きな痛手となった。

 彼がポールスタートだったチームメイトのマクラフラン同様に最初のスティントに新品のレッドを投入していたのは、最初のスティントでレースのイニシアチブを握りたい、という考えがあってのことだったはずだ。しかし、トップに出るどころか、3番手を走り続けるしかなかった。

 パワーはチーム・ペンスキーのクルーの優秀さも武器として、1回目のピットストップでルンガーの前に出ることができた。2番手のポジションを取り返したのだ。しかし、ここでも逃げるマクラフランがパワーと同じタイヤ戦略だったため、思うように差を縮めることができなかった。

 ブラックとレッドを両方使わねばならないルールのため、パワーは最終スティントではなく、3スティント目にブラックを使うことを決めた。これもまた逃げ続けるチームメイトと同じ作戦になった。それではタイヤの差を利用してのオーバーテイクができない。

 パワーはマクラフランの攻略を諦め、ポイントリーダーとして2位フィニッシュを確実に取りにいった。以前のパワーでは考えられない思考法だ。無理に勝ちを狙いにはいかない。そんなパワーが今年のチャンピオンになる可能性が出てきた。

ランキングトップで最終戦に挑むウィル・パワー

 レースを終えたパワーは、ポイントリードを保ったことに高揚している風でも、勝てなかったことを悔しがる風でもなく、実に淡々としていた。

「やるべきことはやった。またしても、そういう1日になった」とパワー。

「今日の自分たちはレッドタイヤの方が合っていて、ブラックでは思い通りの走りができなかった。最後のスティントで使ったレッドは予選で多くの周回をこなしたものだったから不安だったが、スティントを通してみればブラックより安定しているはず……と考えてのことだった。あの判断は正しかった」と彼は静かに語った。

 経験豊富なベテランとして、ライバル(今回はチームメイト)と自分の間にあるマシンなどの差を把握し、レース展開や結末を読んだ彼は、今日目指すべき最良の結果は2位と判断したようだ。

 若いチームメイトに勝利を譲ってもらうことも彼は良しとはしていない。ディクソンが急激な追い上げで3位までポジションを上げてきたが、ひとつだけしか上ではないポジションでのゴールを受け入れていた。

“チームオーダーなど不要。自分の力でもう一度チャンピオンになる”というプライド、意気込みが彼にはあるのだ。

「20点のリードを持って最終戦へ。ポイントリーダーである我々はチャンピオンに最も近い位置にいる。ラグナセカでは持っている力をすべて出し切って戦う」とパワーは語った。

 シーズン6勝目を挙げて一気に3度目のチャンピオンへ……と意気込んでいたジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)は、エンジン交換のペナルティによって予選2番手だったが8番手グリッドからスタート。

 その不利を跳ね除けて4番手まで浮上していたが、最終スティントにブラックタイヤを選んだのが失敗だった。フルコースコーション後のリスタートで彼はレッドタイヤ装着メンバーに取り囲まれ、彼らに次々と抜かれて8位でゴールしたのだった。

予選16番手から追い上げ3位に入ったスコット・ディクソン
イエローコーションが裏目となったジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)

 パワーとのポイント差はポートランドを迎えて時点では3点だったが、最終戦を前に20点へと広がった。ディクソンと同点だ。最終戦はパワー、ディクソン、ニューガーデンによるチャンピオン争いとなるだろう。

 ポイント4番手のマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、今日5番手に浮上っしたマクラフランにも計算上では逆転タイトルの可能性があるが、現実的にはトップ3がチャンピオンの栄冠を賭けた戦いを繰り広げることとなる。

 予選22番手だった佐藤琢磨は最終的に18位でゴールした。

 15位フィニッシュが見えていたが、一度だけ出されたフルコースコーション中に前車との間隔を速やかに詰めなかった、とのペナルティを科せられ、三つのポジションダウンを強いられたからだった。

 ジミー・ジョンソン(チップ・ガナッシ)の事故車両を片付ける作業が行われている状況下、琢磨は安全も考えて間隔を保持していたが、レース再開の遅延に繋がる行為と取られてしまったようだ。

 仮にそうだとしても、何の指示や警告もないまま、いきなりペナルティというのは性急に過ぎる。

終盤までノーコーションのレース展開で追い上げを見せられなかった佐藤琢磨

「今日は良い面と、良くない面の両方があるレースでした。多くのイエローが出ることを期待して2ストップ作戦を想定しましたが、10周か15周を走ったところで、この作戦は成功しないと判明したため、フルパワーで追い上げることを始めました」

「マシンのフィーリングはよく、数台をパスしました。最後に我々には不可解なペナルティが科せられました。クルーが素晴らしいピット作業を行い、順位を上げることをサポートしてくれましたが、フルコースコーション中に速やかに前のクルマに追いつかなかった、と3つポジションを下げさせられたんです……」と琢磨は納得がいかない表情だった。

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