渡辺一樹、21位完走に「無事に終えられてホッとした。本当に幸せな時間だった」/MotoGP第14戦サンマリノGP決勝

 9月4日、2022年MotoGP第14戦サンマリノGPの決勝がミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで行われ、渡辺一樹(チーム・スズキ・エクスター)は23番グリッドからスタートして21位でゴールした。そんなレースを渡辺が振り返り、同行してサポートしている加賀山就臣氏も決勝日の渡辺について語った。

 ジョアン・ミルの代役でサンマリノGPに参戦している渡辺は、予選で23番グリッドを獲得。決勝日は朝のウォームアップ走行で中古タイヤを履き、決勝に向けて最終調整を行った。

「日を持ち越したタイヤを使いましたが、あまりグリップ感がなく思いのほか状況が良くなくて、苦労した部分がありましたが、最後の方は昨日と同じくらいのタイムを出せました。比較的カツカツで走っているライダーが少ないので、一瞬ですけど中上君やいろんなライダーの後ろも見れたし、勉強になりました」と渡辺。

ジョアン・ミルの復帰を願いグリッドにつく渡辺一樹(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第14戦サンマリノGP 決勝

 午後に行われた決勝レースでは、グリッドについたときに、MotoGP.comでの国際放送のインタビューを受けるなど、決勝に向けて時間を過ごしていた。

「(インタビュアーの)サイモン(・クラファー)も初めて会いました。いつもMotoGPを英語の実況で聞いたりしているので、聞き慣れた声なんだけど、こんな顔の人だったんだって思いました。全日本ロードなどと比べると、グリッドは時間的に余裕があり、それこそ左前には(22番手スタートの)中上君がいる状況で、グリッドも後ろの方だったので、あまり緊張するほどの状況じゃなかったのかなと思います。いつも緊張しないタイプではあるんですけど、流石にMotoGPのグリッドは緊張すると思っていたので、緊張していない自分にびっくりしましたね」

スタート直後の渡辺一樹(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第14戦サンマリノGP 決勝

■初参戦のMotoGP決勝レース
 そして、現地時間14時から始まる決勝の前に、1周のウォームアップラップが行われて、渡辺は23番グリッドにつきレースがスタートした。

「結局、スタートのデバイスを入れることができなくて、無事失敗しました。スタートの時点で多少出遅れるらいの方が自分のペースも上げられるし、1コーナーを冷静に飛び込みました。そしたら、1コーナーで転倒があり、GPだなって思いましたけどね(笑)」

スタート直後のクラッシュと渡辺一樹(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第14戦サンマリノGP 決勝

「世界戦になると、1コーナー、2コーナーの争いが激しいし、『Moto2の後だと路面のグリップ的にフィーリングが悪くなるから、気をつけろ』という話はスタート前にされていました。周りを見てちょっとリスキーな状況なのかなと思いながら走り、ただ1周目は比較的みんなの後ろにつけていたので、(レギュラーライダーの)本来の走りを見れて良かったです」

「自分は本当の意味での路面の変化は強く感じてはいないですけど、ラップタイムが自分の想定してるタイムより少し遅かったんですね。それがきっと路面のグリップの悪さで、レース中盤以降はおそらくひとつの要素として路面が綺麗になったこともあって、自分の感覚とラップタイムの整合性が取れてきたとこはありますね」

 この路面グリップは、初日と2日目はMoto3、MotoGP、Moto2の順でセッションが進められるが、決勝日はMoto3、Moto2、MotoGPの順でレースが行われることで路面のコンディションが変わることが要因で、レギュラーライダーもしばしば語ることだ。

渡辺一樹(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第14戦サンマリノGP 決勝

 序盤で合計7台が転倒を喫して、そのうち3台はレースに復帰。追い上げてきたジャック・ミラー、マルコ・ベゼッチ、ファビオ・ディ・ジャンアントニオとも走る機会が訪れた。

「転倒したライダーが復帰して、後ろから来ているというのは、サインボードで出されていました。トップ争いをするようなライダーたちなので、スピード差があり、はっきりとずっと見ていたわけではないですが、走りを間近で見れて『ああいう風に乗るのね、あのバイク』みたいな、バイクのメーカーによってこんなに走り方が違うんだなというのを感じる部分もあり勉強になりました」

渡辺一樹(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第14戦サンマリノGP 決勝

 レース後半は単独走行となったが、23周目にはFP3で記録した1分35秒683を上回り1分35秒228をマークした。

「路面状況も含め、燃料が減ってきてバイク自体も軽くなった効果を思いのほか感じました。ライディングスタイル的にレース中盤くらいアームパンプ(腕上がり)みたいな症状がちょっと出始めました。ちょっとこれヤバいなと思いながらリラックスして、乗り方を変えながらレースを走っていたんですけど、思いのほかそれがレース後半にすごくいい効果をもたらしました」

「やっぱりスムーズに乗ることがこのバイクにとってはスピードに繋がることが多いなというのを改めて感じるなかで、ベストタイムが出ました。ウォームアップ走行と昨日のデータを合わせると、理想値で1分34秒9くらいは出ると話を聞いていて、FP2が終わったあたりで、1分34秒台に入れたらいいなと思っていたので、もうちょっと伸ばせたなっていうのはありますね」

 ラスト2周に入ると、最終ラップの先頭集団が迫ってきた。最終的にトップ2台を譲り周回遅れとなったが、そのコースアウトで3秒のペナルティが科されている。

「トップ争いが来ているってという、『変なサインボードだな』と思いながら走っていました。トップが7秒差で来ているというのが1周ごとに縮まってて『結構な勢いだな、どうしようかな』と思っていました。自分も精一杯のペースで走っているので、ちょっと迷った部分もあり、青旗が出てたタイミングで後ろをパッと見た時に2台が争っていると思って」

「もし1台だったら譲らず、邪魔だと指立てられてもいいやと思ったんですけど、2台のトップ争いを流石に周回遅れでぶち壊すわけにはいかないと思って譲りました。まさかそのコースアウトに対して3秒ペナルティが付くっていう、こっちでもどんな事情があるんだっていう話をしてますけど。ルールはリスペクトしますが、ただレースのエンターテインメント性を損なわないように避けたのになぁと、ちょっと思ってはいました……」

「チームから『別に譲らなくても周回遅れにならなかった』と話をされたので、結果的には譲らなくても良かったのかなと思う部分もありますが、でもこれはレースを守るために、譲って良かったと思います」

渡辺一樹(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第14戦サンマリノGP 決勝

■初のMotoGP参戦終了と2022年限りのチーム・スズキ・エクスター
 それでもMotoGP初レースを21位の完走で終えた。渡辺は「無事にレースを終えられてホッとしています。レース中に今週のベストタイムも出せたので、ひとまず良かったです」とサンマリノGPの3日間の感想を以下のように述べた。

「もちろんこれが最後だと思いたくないし、またこのような機会があればいいなと思う部分も強くあります。やっぱり事あるごとに、このスズキのMotoGPチームが来年はなくなってしまうという悲壮感というか日本語で失望感と言うと酷くなりますが、いわゆる『disappointment』をすごく感じる時があるんですね。垣間見えるその空気感はすごく辛いというか、これだけ自分がライダーとして幸せな時間を過ごしていられるのに対して、その夢が終わってしまう感覚みたいなのはたまにあるので、自分にとってもすごく残念です」

「自分にとっては今週、本当に幸せな時間だったので、またライダーとして実力でこういう機会を勝ち取りたいです。今回は本当に急きょ、テストもせず初めて乗るようなバイクで、初心者マークをつけて走りたいなと思いながら走ったくらいですが、また次走る機会があれば、しっかりと戦える立場として来れるように、ライダーとして成長していければいいなと思っています」

グリッドにつく渡辺一樹(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第14戦サンマリノGP 決勝

 今回、渡辺のサポートをしたYOSHIMURA SUZUKI RIDEWINの加賀山就臣監督は「きっちりと完走して、経験値を上げられたと思います。誰も経験できないことを3日間でできたと思うし、気持ち的に感じたこと、世界一と自分との差の経験や、いろんなことを持って帰ってきてくれたと思います」とコメントした。

「レースは初めて尽くしで、決勝中にベストタイムを出して、頑張ってくれました。間違いなく今後の人生に新しい価値観や限界値ができて、レースの取り組み方の感覚は変わると思います。それは財産なので、すぐに全日本ロードのリザルトが変わるとは思わないけど、オートバイ人生は変わると思います」

 渡辺は、FIM世界耐久選手権(EWC)に参戦しているヨシムラSERT Motul、全日本ロードレース選手権に参戦しているYOSHIMURA SUZUKI RIDEWINのライダーに戻るが、MotoGPの経験を活かしてこれからも活躍することだろう。

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