少しでも小さく

 幕末の蘭(らん)学者が歌を残した。〈背を風に北では左 南では右の手を出せそこが中心〉。吹く風を背にして立ち、北半球では左の手を横に出せば、その方向に台風の目があると教えている▲台風の居どころを知り、「被害を少しでも小さく抑えたい」という切実な心が歌を生んだのだろう。南から吹く暴風を背に受けながら左手を横に出せば、その方角、西の方に台風の中心がある▲気象衛星で台風の位置、進路をほぼつかめるようになった今も、備えや早めの避難くらいしか手だてが見当たらない。台風が襲い来るたび、人知が遠く及ばない自然の力を思い知らされる▲秒速25メートル以上の暴風が吹くと、樹木が根こそぎ倒れ始め、人は立っていられないというから、実際に「背を風に」するのは危なっかしい。大型の台風11号が、本県の西の方に中心を置きながら進んでいる▲積乱雲が連なって、同じ場所に、長い時間、猛烈な雨をもたらす「線状降水帯」が発生する可能性があるという。皆さんがこの新聞を手に取られるとき、雨や風の暴れようはどうだろう▲交通機関は止まり、用心の避難をしたり休校になったりと、影響はあちらこちらに及んでいる。すさまじい風雨が被害を広げませんように。昔の蘭学者に思いを重ねて「少しでも、少しでも小さく」と祈る。(徹)

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