副業するなら知っておきたい「確定申告20万円の壁」は売上と所得どっち?

税理士として、皆さんのお金の悩みを伺っていると、「副業を始めたが、お金のこと全くわからないです」と相談に来られる方が、最近とても増えています。

なんて……嘆かわしい! と、いうことはありません。日本では、会社員の方の税金の手続きは全て会社がまとめてやってくれるので、お金に関すること基本も何も知らなくても立派に生きていけます。副業を始めた皆さんが、お金の知識について不安になるのは当然ですが、安心してください、今回もお笑い芸人で本当の税理士である税理士りーなと一緒に、税の基本を学びましょう!

さて前回、開業の手続きやその際の注意点についてお話ししましたので、今回はその後のお話をします。


売上について

事業主として開業したら、お金を稼ぐために支出をしたり、それによってお金が入ってきたりという、今までプライベートでお金を使っていたのとは性質の違う、「事業として」の収入や支出が発生します。自分個人のお財布とは別に事業用のお財布があって、そのお小遣い帳をつけて管理する、というイメージです。

事業としての収入や支出は「現金出納帳」などの帳簿に記載して、最終的に12月分までを集計し、1年分の金額を税務署に「確定申告」しなければなりません。これは「所得税」の手続きです、詳しくは前回の記事をご覧ください。

この時につける帳簿は、開業届に記載した開業日からスタートすることになります。例えば令和4年9月1日開業なら、帳簿の最初の日付は9月1日に「現金0円」からスタートする、ということです。

もし、開業日よりも前に売り上げた金額があって収入を計上しなければならない時は、事業所得として計算することができません。開業日前の収入については、雑所得として取り扱うこととなります。もちろん、この雑所得の売上(収入)に対応する経費は、雑所得の費用として収入金額から引くことができます。開業日よりも前に売上や経費の支払いがあった場合は、レシートや領収書などの証拠書類もきっちりと残して雑所得としての集計も忘れないように行いましょう。

計上時期

そして開業日以降の売上については、「売上日・取引先・内容・売上額」を記載した売上帳をつけてください。現金の出入りを記した「現金出納帳」などの帳簿に書かれた売上と同じ金額になっているか、毎月チェックしましょう。

なお売上を計上するタイミングとしては、商品を引き渡したタイミング、またはサービスの提供が完了しているタイミングで売上をあげてください。まだ未入金であったとしても、売上としてお金が入ってくるということが決まっているのであれば、売上を計上しなければなりません。

これを帳簿につける際、「現金が入ってきた」時は現金で売り上げたという仕訳を、「まだお金は受け取っていません」という時は、売掛金で売り上げたという処理を行いましょう。

(現金で売り上げたケース)

現金を受け取ったとき 現金 1,000円/ 売上 1,000円(現金出納帳)

(入金が後日のケース)

売掛金で売り上げたとき 売掛金 1,000円/売上 1,000円(振替仕訳)

売掛金を回収したとき 現金 1,000円/売掛金 1,000円(現金出納帳)

また支払った経費についても、開業日以降は帳簿に、支払った日付や支払先その内容と金額を現金出納帳に記帳することになります。

そして最終的に一年分を集計して、売上などの収入から支払った経費などを差し引くと、もうけとなる利益が計算されます。このもうけを基礎として「所得」を計算して、所得税を求めるという流れです。

経費が多ければ多いほど、税金を抑えられるということになるわけですが、経費として認められるのは、「売上を獲得するために必要な支出」ということになっていますので、プライベートな支出などを混ぜ込まないようにしましょう。経費の上げ方については前々回詳しくお話ししていますのでそちらをご覧ください。

事業所得で支出の方が収入より大きくなった場合は、利益や所得がマイナスになります。給与収入がある人については、このマイナス分を給与など他の一部の所得から引くことができることから、「副業の赤字が節税になる」と言われてきました。しかし、8月に掲載されていた「パブリック・コメント」で、それを改めようとする動きもあるので、今後の動きに注目してください。

確定申告20万円の壁

開業届を出すか出さないかで迷われる方もいます。それは、確定申告が必要か不要かというボーダーラインがあるためです。年末調整済みの給与所得のある方で、副業の所得、つまり売上から経費を差し引いて、もうかった利益の金額が20万円以下の場合は、所得税の確定申告が不要です。

つまり、副業をしたとしても所得税の申告がいらない程度のもうけなら、開業届を出したり申告したりという必要がない、ということです。

開業届を出してしまったら、そこから毎年確定申告が必要になりますので、年間20万円以内に儲けの額が抑えられそうなら、手間を考えると開業届を出さないというのも方法です。

ただし、申告不要制度は「所得税」のルールです。

住民税についてはこのルールがなく、儲けがあれば基本的に申告しなさいというのがルールになっていますので、お住まいの自治体に「住民税の申告書」を出す必要があるということは、知っておいてください。いずれにせよ申告するのなら、所得税が申告不要でも「住民税の手間を考えると申告をしておこう」というのもひとつだと思います。所得税の申告を省略した場合は、どんな手続きが必要なのか、お住まいの自治体に確認してください。

新たな控除「小規模企業共済」

晴れて開業して事業主となった場合、新たに活用できる控除があります。それは小規模企業共済掛金という制度を活用した控除です。これは会社員の副業というよりは、今後は退職して事業主として専業に切り替えていきたい方向けの制度です。

この制度は、事業主が将来廃業したとしても、誰も退職金を出してくれないので、自分がしっかりと働いているうちに将来自分に支払う退職金を少しずつ積み立てておいて、廃業時に一括または年金のように分割で受け取ることができるというものです。掛けられる金額は月1,000円から70,000円と自分で設定でき、途中で変更もできます。

この制度の良いところは、自分が将来受け取る退職金を積み立てているだけなのに、その積み立てた金額は税金の計算をする上で「控除」として引いてくれます。所得税の計算時には、「積み立てた金額 × 税率」分の税額が安くなるということです。

所得税は年間の所得に応じて税率が変わり5〜45%、住民税は固定で10%です。月に5万円掛けていると、年間60万円を積立てておくだけで、税金が9〜27万円も安くなるということです。

ただし、この制度の注意点は「対象は個人事業主」という点です。

つまり会社員が副業で事業主として活動している場合は対象外となります。加入するためには一度会社員を辞めなければならない……なんて大袈裟なことになりますので、小規模企業共済に加入する場合は、開業届を出すタイミングも含めてよく検討してください。

さらにこの小規模企業共済掛金制度は、受け取る時も税金が優遇されています。

事業を始める時に開業届を出したのと同様に、事業をたたむ時には、税務署へ提出する廃業届という書類があります。廃業届を出すことで、これ以上事業をやりません、ということになるので、積み立ててきた小規模企業共済の掛金を、退職金として受け取ることができます。

退職金は税金の計算をする上で、控除額というのが設定されています。働いた年数によって控除額は計算され、勤続1年から20年の間は1年当たり40万円の控除額を受けることができます。つまり事業主として開業してから10年間続ければ400万円の控除が受けられるし、20年続ければ800万円の控除が受けられるということです。

20年を超えると1年当たり80万円の控除に増えます。つまり30年働けば1,600万円の控除が受けられるということです。控除額の範囲内であれば、800万円や1,600万円という大金を一度に受け取っても税金がかからないということです。またこの控除額を超える部分については、分割で受け取って年金所得とすることができます。

年金所得についても、老後のための蓄えを切り崩して生活するようなものなので、税額の計算をする上で、控除額も多めに設定されています。掛け金を積み立てている間は控除を受けて税金を安くしてもらい、廃業して受け取る時にはまたまた税額を0、または安くしてもらえる、なんて……喜ばしい! と言いたくなる制度ですね。

失業保険の兼ね合い

会社を退職してから、起業して事業主になろうという人も多いと思いますが、注意しなくてはならないのは失業保険との兼ね合いです。

会社都合か自己都合かによって待機期間など異なりますが、失業保険の給付が始まってから開業届を出さなければ、失業している状態とみなされず、「事業主になっているんだから、失業者じゃないよね? 失業保険いらないよね」ということで、失業保険の認定を受けられないこととなります。失業保険の給付をどうしても受けたいという場合は、 注意が必要です。

しかし、そもそも会社を辞めて起業を予定している人は、本来の制度としての「失業」とはいえませんよね。「もらえるものは貰わないと損!」と、待機期間を待ってまでして失業保険を受け取って、受給を終えてから開業届を出すという人がいるようですが、開業する予定なら待機中や失業保険を受け取っている間に事業主としての機会を逃しているかもしれません。

当初から開業を予定されている方は、是非失業保険の受給を考えることなく、潔く開業届を出して事業主になって活躍していただきたいなと思います。


「これ使えたらお得じゃん!」という話もいろいろありますが、本来の制度の趣旨を考えると、対象外となるケースもあります。貴重な時間を使い、せっせと申請しても対象外になってしまい「なんて……嘆かわしい!」とならないよう、本当に自分が該当するのか検討した上で、正しく節税や給付を受けていただきたいと思います。

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