人手不足にコロナが追い打ち 介護職の娘案じる母の手紙

「どうしても聞いていただきたくて書いています」。大阪市内に住む読者S子さん(59)から手紙が届いた。特別養護老人ホームで働いている長女(24)が新型コロナウイルスに感染したこと。人手不足の介護現場ゆえ、完治していないのに出勤を命じられたこと。集団感染が起きた介護施設で、身も心もくたくたになりながら入所者を介護する娘を案じる母親の苦悩などが便せん5枚にわたってつづられていた。コロナで機能不全に陥りやすい介護現場の現状を知っていただくため、紹介させていただく。(新聞うずみ火 矢野宏)

〈実は、娘が7月21日にコロナに感染しました。20日が夜勤(午後7時~翌朝7時)で、仕事に入る前に抗原検査をした結果は陰性。一緒に受けた看護師は陽性でした。ところが、夜勤をこなした翌21日に発熱し、咳、のどの痛みが出たため、PCR検査を受け、陽性が判明したのです〉

S子さんの長女が勤務する特別養護老人ホームは60人ほどが入所しており、ほとんどが認知症。介護職員は朝から晩まで、食事や入浴、排せつのケアなど、身体を寄せて行わなければできない仕事だ。2年前に話を聞いた時、こう語っていた。

「コロナに感染してしまうことより、誰かにうつしてしまうことが怖いです。ウイルスを施設に持ち込むとしたら職員です。一人でも感染者が出ると、入所者の命にかかわります」。それが現実となってしまった……。

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■陽性なのに出勤

〈当初、28、29の両日に抗原検査して陰性なら出勤するようにと言われていましたが、職場は勤務できる人が数人しかいなくて利用者もほとんど感染したため、いつもより仕事量が増え、最悪の状態だったようです。28日に検査した結果はまだ陽性で、咳も止まらず、鼻声でしたが、幸い平熱だったため、29日には出勤するよう命じられました。まだ治っていない体で12時間労働……。 いつもは気丈な娘が仕事を終えた後、泣きながら電話してきました。過酷な職場環境が恐ろしくなったと。利用者の部屋を出るたび、防護服、二重マスク、フェイスシールド、手袋を取り換えねばならず、自身も咳き込むので二重マスクをしていることで息苦しく、体力的にも「もう自分は死んでしまうのではないか」と思ったと言います。私は「よく頑張ったね」としか言えず、一緒に泣いていました〉

もしかしたら、まだ陽性かもしれないのに出勤を命じられ、翌30日には夜勤だった。

■仮眠なしの夜勤

〈通常、入所者のいる2階と3階に一人ずつ勤務し、仮眠の時間は交代で一人が二つのフロアを見て、もう一人が仮眠するのですが、この日は勤務前に各フロアの責任者から「2階と3階の行き来は禁止。仮眠もなし」と言われたそうです。ひんぱんに鳴るナースコールで防護服を着て利用者のもとへ駆けつけねばならず、おむつの交換にも追われます。コロナ前でも、一つのフロアに30人ほどの入所者を一人で見ることは大変なのに、より過酷なコロナ対応を求められます〉

入所者の世話をする介護職員

たんを出せない場合には吸引しなければならず、酸素飽和度が90以下になると救急搬送しなければならない。しかも、いちいち防護服を着替えながら……。

〈娘はこの日、仮眠なし。夕食を少しだけ口にできたのは夜中の2時頃。トイレにも行けず、「どうか入所者が朝まで無事に生きていて」と祈りながら走り回ったそうです。その日は幸い、何とか無事に乗り切って帰宅することができましたが、娘の体と心が壊れないか心配です〉

■熱あっても働け

24歳の介護職員が60人近くの入所者の命をあずかる、こんな過酷なことはない。何とかならないのだろうか。

〈前々から夜勤が入所者の数に対して職員が一人というのはおかしいと言い続けているようですが、人手不足のため、改善されることはありません。新しく入ってきても、その大変さにすぐに辞めていくようです。介護施設の現場は機能不全に陥っていたのに、このコロナでますます最悪な事態となり、職員は熱があろうが働いてもらうといった感じです。先日、娘のようにコロナウイルスに感染した介護職員が休むこともできず、働いているとのニュースを見ました。どこの施設も同じようなものなのでしょうか。介護職員が減少しているのに高齢者は年々増えていく。介護職員が増えないことへの対策は置き去りにされたままです。娘は夜勤に入る前、「もし、入所者がたんをつまらせたりして亡くなってしまっても責任を取れません」と言ったそうです。その言葉は受け止められることなく、無視されたとのことです〉

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命をあずかる仕事なのに、人がいないから仕方ないでは済まされない。あまりにも介護職員を人間扱いしていない対応に怒りすら感じる。S子さんはこんな言葉で手紙を締めくくっていた。

〈親としては一日も早く辞めてほしいというのが本音ですが、それでなくても少ない人材を私の気持ちだけで減らすわけにはいきません。娘も介護職となって5年、「今、辞めるという気持ちにはなれない」と言っています。一日、いや一分、一秒でも早くコロナが収束してほしい。そして、もっと真剣に介護現場の過酷さを見てほしい。介護職員の命を守る対策を考えてほしいものです〉

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