飛行士の自覚

 建築家、詩人、哲学者、数学者と幾つもの顔を持っていた米国の鬼才、バックミンスター・フラーが「宇宙船地球号」という言葉を初めて口にしたのは1951年のことだ▲フラーはこう考えた。地球とは一つの宇宙船であり、人類は誰もが宇宙飛行士だ。地球号が調子よく動き続けるには、飛行士が船の全体構造を理解し、保守点検をしていく必要がある▲限りある石油や石炭などの化石燃料では地球号のエンジンをいつまでも動かせない。動力は早めに風力、潮力、太陽光といった再生可能エネルギーに切り替えなければならない、と▲だが人類は化石燃料への依存を続けている。温室効果ガスの排出は止まらず、温暖化が進む。そして今、直面するのは気候危機だ▲パキスタンが、国土の3分の1が浸水する洪水に見舞われ、千人以上が死亡した。温暖化で氷河が溶けているのも要因という。「パキスタンの二酸化炭素(CO2)排出量は世界の1%以下だ。温室ガス排出には加担していない」。気候担当相の訴えが悲痛に響く▲世界のCO2排出量は中国が突出して多く、全体の約3割を占めるが、日本も世界5位の排出大国だ。他の先進国に比べ温暖化対策が見劣りすると言われる日本。フラーなら「もっと宇宙船地球号の飛行士としての自覚を」と言うだろうか。(潤)

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