「がんばらなくていい…」 “老老介護”と向き合う男性が絵の個展を開いて伝えたかったこと 妻の介護続けて20年

高齢の方が高齢の方を介護する「老老介護」…。悲しい事件が起きることもあるほか、多くの人にとって人ごとではない問題です。広島・東広島市で20年間、妻の介護を続けている78歳の男性が、絵の個展を開いています。その思いとは…。

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先月、記者のもとに1通の案内状が届きました。送り主は、この優しい目元が特徴の男性…。

景山 源吾 さん(78)
― やっぱり、そっくりですね。
「ははは…」

景山 源吾 さん、78歳です。東広島市で水彩画の個展を開き、花や風景など30点を展示しています。

中にはこんな絵も…。

景山 源吾 さん
「観音様というのは、仏様になるための修行をしている人なので、どんなところにでも行って、わたしたちをサポートしてくださる人。じゃあ、観音様は介護の世界に来てもいいんじゃないかということで、これを描いた」

個展のタイトルは「介護と共に」。これまで景山さんが、妻の介護とともに歩んだ20年の思いが込められていました。

RCCが景山さんを初めて取材したのは7年前…。

景山 源吾 さん 2015年
「おーい、起きれるか」

景山さんの妻は、60歳のときにアルツハイマー病を発症。会話ができず、日常生活のすべてに介助が必要で、「要介護5」の認定を受けています。

午前6時、体温と血圧を測ったあと、車いすに乗せ、トイレへ連れて行き、排せつを済ませる。休む間もなく朝食を作って食べさせる。景山さんは、これを毎朝、こなしていました。

いわゆる「老老介護」。2人きりでの生活にはつらい時期もあったと話してくれていました。

景山 源吾 さん 2015年(当時72)
「余裕がないときは、かなわんわけですよ。つい怒る。怒るだけじゃなくて、手が出る」

それから6年…。

景山 源吾 さん 2021年
「これが、できないんですよ。けんしょう炎。ばかなことよ」

1人での介護には限界が…。介護保険サービスを利用し、ホームヘルパーや訪問鍼灸師などを自宅に呼ぶようになりました。

景山 源吾 さん 2015年
「よその人を入れるというのは(最初は)抵抗ありますよね」

― 頼らないと難しい?
「はい。やっぱり自分じゃ、ここまでようしないなと思いましたね」

デイサービスやショートステイも進んで利用し、自分に余裕を持たせることを意識するようになりました。

景山 源吾 さん 2015年
「『ばんざい!』くらいにほっとします。車が出た瞬間に」

壁に飾られた絵には、苦労がにじんでいます。

景山 源吾 さん 2015年
「間違いなくね、これは本音ですよ。自分が一生懸命、(介護)すればするほど、元気になるじゃないですか、本人は。介護する方は、いつまで看にゃいかんのかねというのが背中にはおるんですよね。まあ、その矛盾でいいと思うんですよ」

がんばらなくていい…。頼ればいい…。景山さんが、過去の自分から学び、今、介護で悩んでいる人に伝えたい言葉です。

先月、着々と展示の準備を進めていた景山さん。個展を開く1番の理由を教えてくれました。

景山 源吾 さん
「(介護している人が)孤立したら、いい方向に行かないので。絵を展示しながら、そういう関係の人(介護に悩む人)が来たら、わたしが話して、最終的にはいろんないい組織があるから、つながってねというのが目的なんです」

家に閉じこもって介護をしている人が一歩外に出るきっかけになれば…。そう願いを込めて、案内状には「介護の相談だけでも歓迎」と書きました。

そして、当日…。

いつも介護を応援してくれている知り合いはもちろん、プライベートで訪れた市役所の職員や大学生たちの姿も…。

個展には、近所の人が大切に育てたという大文字草などの花…。それに寺や神社など、景山さんの好きな風景が並びます。

会場には、「介護と共に」というフレーズにひかれ、たまたま立ち寄ったという男性もやってきました。

老老介護している両親をもつ人
「母親の認知症が進んでいて、認知症自体は受け入れるしかないけど、父親がまだあまり受け入れ切れていなくて、しんどい状況」

景山さんは、話にじっと耳を傾けます。

景山 源吾 さん
「たぶん、お父さんにしてみれば、(妻を)ショートステイに入れるというのは罪の意識があるんです。だから、無理せんでいいけえ。そういう人もおったよって伝えて」

新聞を見て個展を知ったという夫婦…。介護の相談のために廿日市から足を運びました。

介護相談のため訪れた人
「もっと主人に前向きになってほしい。(夫が)こんなふうになっているのに、わたしはどういうふうに対応していいか。これで、わたしはちゃんとできているのか…」

景山さんは、介護保険サービスを利用するよう勧めたり、「家族の会」という介護経験者が集まる場所を紹介したりしました。

介護相談のため訪れた人
「家族(介護)の会のことを今、聞いて、わたしはそれを探していたんです。それがちょうど、わたしにはぴったんこで。これを機に、きょうからがんばってみます」

景山 源吾 さん
「お互いにね。(わたしの)18年前みたい」

「やっぱり、こういう機会があって、連絡してきてくださる人がいらっしゃるんだったら、こういうのをだんだん広げていかな、いかんという気がしている。続けられたらいいなと思うんですよね」

会場には、自分が介護をしている妻の絵も…。表情がないときも豊かに感情を見せてくれるときも何枚も描いてきました。

景山 源吾 さん(78)
「結婚して50年以上経っているから。一緒に生活したんだから、最期まで一緒にできればやってあげる。できなかったら、いろんなところにお願いしないといけないかなと…。それでいいかなと思いますね」

― 景山さんは、初めて個展を開いたということですが、今後、介護で悩みを抱えている人とどうやってつながっていけるか、そして、どう助けになっていけるか、模索していくということです。

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