最後の開催となるプケコヘ戦はレッドブルの王者SVGが赤旗混戦を制しての“ダブル”達成/RSC第10戦

 南半球を代表する人気シリーズ、RSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップは、9月9~11日の週末に、今季限りでモータースポーツ開催地としての幕を降ろすと発表したニュージーランド(NZ)の名物トラック、プケコヘパーク・レースウェイでの第10戦『ITMオークランド・スーパースプリント』を開催した。

 土曜初戦こそ名門シェルVパワー・レーシング所属のウィル・デイビソン(ディック・ジョンソン・レーシング/フォード・マスタング)が、自ら40歳の誕生日を祝う今季3勝目を飾ったものの、明けた日曜は地元NZ出身の“盟主”が躍動。選手権首位を行くレッドブル・アンポル・レーシングの王者“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギズバーゲン(トリプルエイト・レース・エンジニアリング/ホールデン・コモドアZB)が、赤旗発生の混沌バトルにも動じず。前戦サンダウンをリピートするかのような“ダブル”を達成し、同地最後のレースを飾る結果に。こうして日曜の劇的な2戦を最後に、プケコヘはレース開催地としての役目を終えることとなった。

 感染症対策による渡航制限の影響も受け、約3年ぶりにスーパーカーの一行を迎えたオークランドだが、NZを代表するトラックはこの8月にも重要な意思決定を降し、馬術競技からスタートした同地のルーツに立ち帰り「持続可能なサラブレッド競技を推進する」との方針を採択。2023年4月限りで「すべてのモータースポーツ活動を終了する」とアナウンスしていた。

 パドックの誰もが“最後の開催”となるプケコヘパーク・レースウェイに惜別の思いと敬意を表して始まった週末は、アントン・デ・パスカーレ(ディック・ジョンソン・レーシング/フォード・マスタング)とデイビソンがそれぞれFPで最速を記録する立ち上がりに。さらに予選では、そのデイビソンを0.0969秒差で上回ったキャメロン・ウォーターズ(ティックフォード・レーシング/フォード・マスタング)がポールポジションを奪うなど、フォード陣営が勢いを見せつける。

 そのまま土曜午後に始まった41周スプリントのレース1は、スタートでポールシッターがわずかに出遅れ、デイビソン&パスカーレのDJR艦隊が先行。序盤で万全のピットストップマージンを稼ぎ出す。一方、背後ではオープニングで4ワイドを演じたジェームス・コートニーとティム・スレードがマスタングの同士討ちでダメージを負い、ピットアウトの際にはジェイク・コステッキ(ティックフォード・レーシング/フォード・マスタング)の左リヤタイヤが脱落するなど、盤石の“2タイヤ”をこなしたDJRとは対照的に、ティックフォード陣営には厄災が続くことに。

 最後の10周で車両回収の必要からセーフティカー(SC)が導入され、ルーティン作業で2番手に進出してきたアンドレ・ハイムガートナー(ブラッド・ジョーンズ・レーシング/ホールデン・コモドアZB)に対し、首位デイビソンのリードは残り5周のリスタートに向け帳消しに。しかし前週に誕生日を迎えたデイビソンはこれを落ち着いて処理し、ハイムガートナー、ウォーターズを従えて週末最初のトップチェッカーをくぐってみせた。

「純粋に(ギャップを保つ意味では)そのままレースが続いてくれた方がうれしかったけどね」と、フィニッシュ後に振り返ったデイビソン。「ただ実際は一息つく暇ができたし、それが助けになったのも事実だ。フロントタイヤを冷ますこともできたしね。リスタートしてからも、クルマは素晴らしいままで安心した。プケコヘに感謝しているし、ニュージーランドにも感謝したい。ここはレースをするのに信じられないほど素晴らしいスタジアムで、本当に特別な場所だったよ」

地元出身“Kiwi”の王者“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギズバーゲン(トリプルエイト・レース・エンジニアリング/ホールデン・コモドアZB)は、最後の1戦に向け特別カラーで臨んだ
土曜R1はウィル・デイビソン(ディック・ジョンソン・レーシング/フォード・マスタング)が、自ら40歳の誕生日を祝う勝利で今季3勝目を飾る
オープニングで4ワイドを演じたジェームス・コートニー(ティックフォード・レーシング/フォード・マスタング)はマスタング同士討ちでダメージを負い、レース3でもクラッシュを喫することに

■決勝はセーフティカーに加え赤旗中断というアクシデント満載の1日に

 明けた日曜午前の予選シュートアウトは、そのデイビソンとSVGが同地最後のポールポジションを分け合うと、長い歴史を持つトラックのフィナーレを演出するかのようにアクシデント満載の1日となる。

 まずレース2でフロントロウ発進を決めたSVGとその僚友ブロック・フィーニー(トリプルエイト・レース・エンジニアリング/ホールデン・コモドアZB)、そしてふたりに分け入ったデイビソンの3台とは対照的に、2列目4番手から出遅れたパスカーレが、ブロディ・コステッキ(エレバス・モータースポーツ/ホールデン・コモドアZB)と絡んでウォールに激突。これでシェルVパワー・マスタングの11号車は大破し、早くもSCがコールされる。

 さらに同じ周回のわずか数百メートル先では、このレース直前にアーウィン・レーシングとの複数年契約更新をアナウンスした2014年王者マーク・ウインターボトム(チーム18/ホールデン・コモドアZB)が、並走していた初代TCRオーストラリア王者のウィル・ブラウン(エレバス・モータースポーツ/ホールデン・コモドアZB)を弾き飛ばし、ブラウンは高速コーナーで車速を落とせぬままアウト側ピットレーン・エントリーのウォールに衝突。バリアにもダメージが及び、ここで20分間の赤旗中断となる。

 明けたリスタートでは2番手デイビソンがレイトブレーキングでターン8アウト側を攻め、首位SVG攻略を狙ったものの叶わず。これで前日勝者は大きくポジションを失い、チャズ・モスタート(ウォーキンショー・アンドレッティ・ユナイテッド/ホールデン・コモドアZB)やウォーターズを抑え切ったSVGが勝利を収めた。

 そしてスーパーカーが争う同サーキット最後のレース。週末最終ヒートも波乱続発の展開となり、まずスタート直後にはコートニーのマスタングがコントロールを失いウォールの餌食に。再びバリア修復の必要性があったことから、SC先導で12周ものレース距離を消化することに。

 再開後すぐにピットウインドウが開くと、ハイムガートナーが再びBJRの迅速な作業にも助けられパスカーレの前へ。続く周回でピットへ向かった2番手ウォーターズに反応し、首位デイビソンも義務消化へ向かうも、なんとここでDJRのクルーが作業を焦ったか、左後輪が完全フィックスされる前にジャッキダウンしてしまい、この瞬間“プケコヘ・ファイナル・ウイナー”獲得の可能性が絶たれてしまう。

今季好調の続くアンドレ・ハイムガートナー(ブラッド・ジョーンズ・レーシング/ホールデン・コモドアZB)は2位に入り、日曜レース3も3位表彰台を得る
日曜午前に複数年契約延長をアナウンスした2014年王者マーク・ウインターボトム(チーム18/ホールデン・コモドアZB)
レース2に向け、SVGが僚友ブロック・フィーニー(トリプルエイト・レース・エンジニアリング/ホールデン・コモドアZB)を従えポールポジションを獲得する

■フォードとの肉弾戦を制したSVGが今季18勝目

 義務ピットが一巡し、王者SVGも作業を引き伸ばした25周目にピットへ向かい、僚友フィーニーに譲られるようにトラックへ合流すると、首位ウォーターズと2番手ハイムガートナーの追撃体制に入る。

 ここで首位を行くモンスターエナジー・フォードが最初のミスを犯し、芝生を横切って大きく滑走。背後のホールデン2台を自ら呼び寄せる展開となる。これを機と見たチャンピオンは、31周目にBJRのマシンを仕留めて2番手に浮上し、直接対決のお膳立てを整え、残り10周でフォードとの肉弾戦が幕を明ける。

 すると34周目にウォーターズが2度目の“小さなエラー”でSVGを招待し、右90度のターン8でわずかにワイドになり、そのインサイドにレッドブル・ホールデンが飛び込んでいく。なんとか首位を死守した50号車のマスタングだったが、続くラップでも同じコーナーでサイド・バイ・サイドに持ち込まれると、続く高速コーナーでわずかに右リヤをヒットされ、姿勢を崩しながらもなんとか堪えて応戦する。この緊迫のバトルに、詰め掛けた観客はサーキットを1周する大歓声で“地元の英雄SVG”の大逆転を信じ、声援を送る。

 すると残り3周でターン8から“同じムーブ”で迫ったSVGが、立ち上がり勝負のトラクション競争で優位に立ち、今度こそ高速インサイドからのマスタング攻略に成功。ウォーターズ、ハイムガートナーを従え今季18勝目を飾るとともに、シリーズ最大の祭典『バサースト1000』を前に選手権リードをさらに盤石なものに広げるプケコヘ・ファイナル・ウイナーの称号を手にした。

「もう『僕は諦めない』という思いだけだった。彼(ウォーターズ)こそが『最も追い抜くのが難しい男』になることは分かっていたからね」と、終盤の白熱バトルを演出した逆転ウイナーのSVG。「彼はバトルに際して、すべての正しいドライブをしていたが、いくつかの間違いも犯していた。だから僕は、彼のミラーというミラーのなかで動き回ることを意識したんだ。本当に……現実とは思えない結末だ!」

 これで3連覇王者スコット・マクラフランの持つ年間最多勝“18”に並び、獲得ポイントを2782点としたSVGは、ランキング2位のウォーターズに500点近いマージンを稼ぎ出す結果に。続くRSC第11戦は恒例の会期に戻った10月6~9日に、シリーズの“聖地”マウントパノラマを舞台とした今季唯一の耐久カップ登録戦『レプコ・バサースト1000』が待ち受ける。

レース2で大クラッシュを強いられたウィル・ブラウン(エレバス・モータースポーツ/ホールデン・コモドアZB)。ドライバー、代表ともチーム18のガレージに怒鳴り込む一幕も。これで次戦のワイルドカード枠が不透明に
レース2はチャズ・モスタート(ウォーキンショー・アンドレッティ・ユナイテッド/ホールデン・コモドアZB)やウォーターズを抑え切ったSVGが勝利を収めた
白熱の最終ヒートで大逆転劇を演じ、地元のファンを沸かせたSVGが“プケコヘ・ファイナル・ウイナー”の称号を手にした

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