秋暑し

 ね、いい子だから泣かないで。込み合う残暑の車内、ぐずる幼子。乗客たちの視線が冷たく突き刺さる。そんな体験を詠んだか、たまたま居合わせたか-〈秋暑き汽車に必死の子守唄〉は昭和を代表する女性俳人、中村汀女の句▲ただし「秋暑し」は暦の立秋を過ぎて続く暑さをいう一般的な秋の季語だ。1900年生まれの中村汀女が“絶賛子育て中”だった頃の日本の9月、「猛暑日」はあったかどうか▲昨日のお昼すぎ、社外での用事を終えて屋外に出ると、スカッと晴れた青空から本気の太陽がぎらっと照りつけている。うわ、暑い。いや、真夏のまとわりつくような暑さとは違うさ、と一瞬だけ強がってみたが、たちまち汗が噴き出してきた。たまらず図書館に寄り道▲県内に18ある観測地点のうち、5地点で最高気温が35度を超えた、と別面の記事にある。長崎市の35.9度は今年一番の暑さだった。数字は正直だ。変に強がっている場合ではなかった▲暑さはきょう、あすも続くらしい。朝晩はいくらか涼しくなりかけて…と思った矢先の気温の変化は余計にこたえる。どうぞ、くれぐれもご自愛ください▲こんな句も見つけた。〈秋暑し/読めと言はれし本の嵩(かさ)〉岡本明美。活字とじっくり向き合う「読書の秋」は、もう少し涼しくなってから、か。(智)

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