世界最大級の運用会社やヘッジファンドの帝王は、いまどこに投資しているのか?

投資のリスクを減らす方法のひとつとして「分散投資」があり、資産や銘柄だけではなく、地域も分散させることができます。

登録者数10万人超えのYouTube・聞いてわかる投資本要約チャンネルを運営するタザキ( @tazaki_youtube )氏の著書『お金の名著200冊を読破してわかった!投資の正解』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を抜粋・編集して国際分散投資について解説します。


日本人の資産は、円建て資産に偏りがち

大半の日本人家計の資産は、あまりにも円建ての資産に偏っています。現預金は円で保有するのが当たり前、株といえば日本株を買うのが当たり前、と考える人が大半です。窓口で証券マンから「米国株がいいですよ!」なんて言われれば「ちょっと異端な営業マンだ」と感じるのが、普通の日本人です。

このような「ホームカントリーバイアス」がかかるのは、なにも日本人だけではありません。日本人が円建ての資産に偏るように、アメリカ人なら自国のドル建て資産に偏ってしまいます。しかし正しい分散をおこなうには、まず「ホームカントリーバイアス」を排除し、世界に目を向けることが重要です。

それに今は、ものすごく簡単に対外資産に投資できる環境が整っています。外貨預金でもいいのですが、株式などのリスク資産にも簡単に分散投資ができます。例えば、前述の楽天VTI。楽天証券口座にあなたの「円」を入れてこの投資信託を購入すれば、「ファンド内で勝手に米ドルに両替してVTIという海外ETFを購入してくれる」のです。仮の話ですが、今後円安が進行して1ドル=130円(2022年5月現在)から1ドル=260円になったとすると、中身の株価が動いていなかったとしても、ファンドの基準価額は2倍になります。

もし国内資産にしか投資していなければ、単純にドルに対しての購買力が半分になってしまいますが、外国の資産を買っておけばそういった事態も防げます。それを円建てで購入できるのは、とても便利です。

そして、ここからが本題なのですが、ホームカントリーバイアスを理解して世界への分散投資を始めた日本の個人投資家のYouTubeやTwitterでのコメントを見ていると、「米国株以外はいらない!」「アメリカ一択でいい!」と考える人が少なくないようです。もちろん全世界分散派も一定数はいますが、米国株一択派の人気はかなり強そうです。ここが一つの論点になります。実際、過去10年間の成績を見ていると、そう思ってしまう気持ちもわからなくもありません。

直近10年はアメリカ株の時代だった?

2010年代は、アメリカの時代だったと言っても過言ではありません。米国への分散投資は、全世界分散や先進国分散と比較して圧倒的なパフォーマンスを出してきました。しかし、投資において心理バイアスの中に、「代表性ヒューリスティック」という、「上がるものはさらに上がり続ける、下がるものはさらに下がり続けると思い込む現象」があります。そして、「今回は違う。本当に上がり続けるはずだ」と考えて、これまでに人類は何度もバブルを経験しては崩壊させてきました。

そして、米国株のこの高いパフォーマンスを語る上で、最近注目されている指標、「S&P495」を無視することはできません。S&P495は、S&P500から「GAFAM」を抜くことで導かれた指数のことです。「GAFAM」とは、「グーグル」「アップル」「フェイスブック」「アマゾン」「マイクロソフト」の総称です(フェイスブックは「メタ」に、グーグルも正式には「アルファベット」というグーグルの持ち株会社のことなので、この総称も変わってきそうですが、今は「GAFAM」が浸透しています)。

なんとS&P495の直近10年間のリターンは、日本のTOPIXと大して変わらなかったという報告もあります。「アメリカ株の10年」というよりも「GAFAM株の10年」だったと言うほうが正しいのかもしれません。

「米国株が強い時代が今後も続くのかどうか?」という疑問に対する答えは、「GAFAMの成長が今後も続くのか?」という問いに大きく関係しそうです。

私のYouTubeチャンネルでも「GAFAMは人々の生活に根付いている!」というようなコメントを山ほどいただきました。まさに「This time is different!」というわけです。たしかに、プラットフォームを押さえているGAFAMの牙城を崩すのは簡単なことではありませんが、同じ成長率を維持できるのかと考えると疑問が残ります。

2010年といえば、まだガラケーが主流でスマホが登場し始めた時代でした。フェイスブックに登録しているのは物好きな一部の人だけでした。そこから一気に世の中の主流がスマホに入れ替わり、先進国だけでなく新興国でもスマホが普及しました。そして、スマホやタブレットを使い、ネットで手軽に買い物をする文化が定着しました。その結果、アップルだけの時価総額で3兆ドルを超え、イギリスやフランスといった先進国のGDPを超える「国家」並みの企業に巨大化しました。いずれ日本のGDPを超えることも、現実味を帯びています。

しかし、それがこの10年でGAFAMサービスの利用者が急増したからだとすると、今後さらに急増することはあるでしょうか。世界の人口は限られています。もはや頂点に君臨して市場を独占したGAFAMが、これまでと同じ成長率を維持することは難しいのではないでしょうか。

米国株の世界シェアに関する予測

次に、マクロ的な観点から、国際分散投資について見てみましょう。ジェレミー・シーゲル氏は『株式投資 第4版』で、「投資対象を米国株だけに絞るのは、投資家にとって危険な選択である」と警鐘を鳴らしています。その理由を、「米国株の世界シェアは、今世紀の半ばまでに18%以下に低下してしまうから」としています。

2022年2月現在で、世界の株式時価総額比率でアメリカ株は44%を占めます。戦後は約9割、70年代は世界の3分の2に、2000年代には3割ほどになり、この10年間で44%まで盛り返しました。これが2050年には2割以下にまで下がるとシーゲル氏は言っているのです。

この数字は浮動株調整をおこなっていない数字なので、我々が実際に購入できる浮動株調整をおこなえばもう少しアメリカの比率は高まりますが、それでも世界シェアの半分をきると考えるのが妥当ではないでしょうか。だとすれば、米国株だけを保有するというのは、世界の大半を無視することになります。

そこまで米国のシェアが長期的に低下すると予測されるのには、人口とGDPの予測が関わっています。

現在、人口が世界最大の中国ですが、10年以内にピークアウトを迎えて減少に転じ、2030年頃にはインドが世界一になる見込みです。インドは現在の13億人の人口の約半数が25歳未満の若者です。この大量の若年層の影響で、世界の生産と消費を支える大国になると予測されています。

総人口における生産年齢人口の比率では、2050年にはアメリカは61 .1%、中国は高齢化が進んで59.8%と低下するのに対し、インドは67.8%と高い比率を保つと予測されています(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2022」より)。

次にGDPの予測を見ていきましょう。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の調査レポートでは、2050年には中国が約50兆米ドル、アメリカが34兆米ドル、インドが28兆米ドルで、飛び抜けた3大経済大国になると予測されています。

それでは、成長「率」はというと、下記の表にある通りインド(GDP予測3位)は年率平均で7.7%、インドネシア(GDP予測4位)は6.2%、サウジアラビア(GDP予測14位)は5.1%、ナイジェリア(GDP予測15位)は6.2%、エジプト(GDP予測18位)は6.6%、パキスタン(GDP予測19位)は7.0%と、新興国の発展は目覚ましいとされています。

一方、アメリカ(GDP予測2位)は年率平均で1.8%、日本(GDP予測5位)は年率平均で1.1%、ドイツ(GDP予測7位)は年率平均で1.7%、イギリス(GDP予測9位)は年率平均で2.1%と、現在の先進国は低成長です。

GDPの成長と、株式投資のリターンは必ずしも一致しません。しかし、20年や30年の成長を見越すのであれば、新興国の成長を無視するのは大きな機会損失になる恐れがあります。

とはいえ、新興国にはさまざまなリスクもあります。インドはいまだにカースト制度が残り、アフリカには宗教問題や民族問題があります。そのようなことも踏まえると、集中投資をするのは怖いというのが正直なところでしょう。そうなると、全世界に分散し、世界経済全体のリターンを享受することが最善と考えられます。

バンガード社も世界分散を推奨している

世界で最初に個人向けインデックスファンドを創設したバンガード社は、「Vanguard economic and market outlook:2022」にて、今後10 年間の米国株全体の平均リターンは米国を除く世界株式の平均リターンに劣ると予測しています。具体的に言えば、米国全体の平均リターンは3.3%で、ボラティリティは16.7%。米国を除く世界株の平均リターンは6.2%、ボラティリティは18.4%としています。

また、「ヘッジファンドの帝王」と呼ばれ「オール・ウェザー戦略」や個人投資家向けの「オール・シーズンズ戦略」をつくったレイ・ダリオ氏が、新著『Principles for Dealing with the Changing World Order : Why Nations Succeed and Fail(未邦訳)』で、米国の衰退を示唆していることも見逃せません。過去何百年の歴史サイクルを踏まえ、覇権国の変遷を示し、米国の覇権が中国に取って代わられる可能性を示しています。実際、米国の過剰債務や極端な貧富の差の拡大といった問題は、米国の衰退を推進する可能性があります。

最後に、世界的な機関投資家を見ても、徐々に国際分散にシフトさせていることがわかります。イェール大学の2021年度レポートによると、国内の株式は2.25%、世界株式に11.75%と、米国の大学基金も米国株に集中させてはいません。

参照した『イェール大学流投資術』では、ポートフォリオに米国外の株式を組み入れる分散を推奨しています。外国株式のリターンと米国株式のリターンは異なる要因によって動くため、たとえ相関性が近年高まっているとしても、分散効果を発揮してくれるのです。

著者:タザキ

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