<秒読み 西九州新幹線開業> 『並行在来線』 利用減少、存続に不安

23日から新ダイヤで運行する並行在来線。日中の本数が限られているのは変わらない=諫早市、JR小長井駅

 有明海に面し、佐賀県境に近いJR小長井駅。8月下旬のある日の夕方、長崎方面から来た2両編成の普通列車が止まった。降りたのは高校生4人のみ。乗る人はいない。約1時間後の列車も同様だった。
 諫早市小長井町は昨年施行の新法で過疎地域に指定された。駅利用者が減り、現在、上りは午前8時台の次が午後1時台、その次は同4時台までない。“空白”の時間帯は県交通局系の路線バスが走るが、赤字のため国や市の補助も受け運行を維持している。
 西九州新幹線が23日に開業し、長崎線のうち肥前山口(佐賀県江北町、開業後は江北駅に改称)-諫早は並行在来線になる。これに伴うダイヤ改正で特急は廃止に。小長井駅は普通列車が上下各1本増えるが、長崎直通は減る。近隣住民は「もともと特急は止まらなかったし、普通列車の本数も少ない。そこまで影響はないのでは」と話し、続けた。「ここは蚊帳の外」。同じ市内でも、再開発で活気づく諫早駅周辺との温度差は歴然としている。
 佐賀県側への影響は大きい。肥前鹿島駅(同県鹿島市)は博多方面の特急が存続するものの、上下45本程度から14本に減便する。
 小長井町に隣接する同県太良町の坂口祐樹県議は将来も見据え、こう指摘する。「乗客が減っているとはいえ、ゼロではない。これまでの経緯も踏まえ、沿線住民の『足』を奪うことは許されない」
 経緯とは、かつて鹿島市や太良町などが経営分離に反発し、新幹線着工に向け、地元同意が不要な「上下分離方式」で関係6者が合意、決着したことを指す。これに基づき、少なくとも開業後23年間はJR九州が並行在来線を運行し、両県設立の一般社団法人が鉄道施設を維持管理することになった。
 九州新幹線鹿児島ルートは先に違う経緯をたどった。部分開業した2004年、熊本、鹿児島両県をまたぐ並行在来線(八代-川内)はJR九州から経営分離。第三セクター「肥薩おれんじ鉄道」が引き継いだが、2年目から赤字が続く。
 同鉄道沿線の阿久根駅前で約70年、商店を営む若松光志さん(74)は「新幹線で地域は衰退した」と嘆く。鹿児島県阿久根市の人口(国勢調査)は05年の約2万5千人から、20年は約1万9千人にまで減少した。
 長崎線もいずれ同じ道をたどるのか-。JR九州の古宮洋二社長は、運行を約束した23年間の後について「軽々に言えない」とした上で、利用者数を判断材料の一つと示す。人口減に加え、車社会の地方でいかに乗客を確保していくか。新幹線の活用と同時に、同社や自治体はこの難題にも向き合う。


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