<秒読み 西九州新幹線開業> 『佐世保』 効果“限定的”…それでも

佐世保線は全てICカードの利用が可能になる。西九州新幹線開業に伴い観光列車「36ぷらす3」(左上写真)が往来する。

 西九州新幹線開業まで1カ月を切った8月26日。佐世保市役所であった定例記者会見で、新幹線が長崎県北や同市に与えるインパクトを問われた朝長則男市長はこう答えた。「非常に限定的ではないか」。期待感が高まる沿線地域とは裏腹に、その言葉は淡々としていた。
 新幹線は武雄温泉-長崎の部分開業で、佐世保市を経由しない。そのため「市民はほとんど利用できない」(朝長氏)。博多方面の往復には、これからも特急みどりを使う。
 新幹線の乗客を呼び込み、周遊させるのも容易ではない。在来線に乗り換える場合、県南北を結ぶJR大村線の利用が想定される。だが同線の一部は、JR九州のSUGOCA(スゴカ)など全国共通の交通系ICカードを使えず利便性に欠ける。
 同社などは地元の要望に応え、2024年度にICカード使用可能エリアを佐世保線と、大村線のうちハウステンボスまで広げると同22日に発表。ただ大村線の一部は使えないまま。長崎、佐世保両エリアの往来は切符を買う手間が残る。佐世保市議会からは「不十分」との反発も出ている。
 県北は佐賀県に隣接し、地縁が深い。ただ、新幹線沿線の同県武雄、嬉野両市とは距離感もある。
 19年、佐世保市を中心に人口減少社会を踏まえた「西九州させぼ広域都市圏」が発足。同県伊万里市、有田町を含む12市町が加盟し、インフラ整備や観光振興などの政策で連携している。だが武雄、嬉野両市は協議がまとまらず離れた。新幹線の名称にもなった「西九州」を一体的に盛り上げる機運は乏しい。
 そもそも九州新幹線長崎ルートは、1978年に佐世保市が原子力船「むつ」の修理を引き受けた見返りに、与党が優先着工を認めた。だが費用対効果が問題視され、同市を経由する計画を断念するという“市民の犠牲”によって存続した経緯がある。
 開業メリットを見いだせず、「佐世保経由が実現していれば」と悔やむ声を引きずりながらも、間接的な波及効果を狙う動きはある。JR九州などは10月から西九州新幹線をPRする「デスティネーションキャンペーン」を全国展開。佐世保観光コンベンション協会も参加し、停車駅から佐世保に足を延ばすモデルコースを開発した。
 開業に伴いJR九州は、九州全県を巡る観光列車「36ぷらす3」の発着地の一つを長崎から佐世保に変更。同協会は新たな旅のスタイルとして売り込む構えで、蓮田尚事務局長は「新幹線開業は県全体の魅力を全国に知ってもらえる有り難い機会。多くの人に『次は佐世保へ行きたい』と感じてもらうのが大切だ」と前を向く。


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