<南風>サンタクロースの秘密

 幼少期、私は我が家にはサンタクロースが遊びに来る、と信じていた。そのサンタさんは、赤い服も着ていないし、白いひげも生えていないが、彼が我が家にやって来ると、楽しいことやうれしいことばかり起こるので、いつも会えるのを心待ちにしていた。

 そんなある日、早く起きた私は暇を持て余し、母の部屋を訪ねると、もう一人寝ている人を見つけた。私は何度も、かけてある布団をめくっては考え、「サンタさんだ」と確信した。今思えば変な話だが、サンタはうちに来る、と信じていたのだから、ただワクワクした。そう、サンタクロースの正体は「父」だったのだ。

 私の父は、忙しく、午後8時までに寝て午前5時前には起きる私が、平日に父に会える機会は少なく、特別なイベントと捉え、知っている中で最高の登場人物であるサンタさんだと思い込んでいたのだろう。サンタさんがやって来る日は、誰かの誕生日や、クリスマスの日だったと思う。

 私にとって父は「非日常」の象徴だった。台風の日やお正月など、父が休みで自宅にいる日が、私たちきょうだいは大好きだった。折り紙も、草笛も、虫の捕まえ方も、カードゲームも父が教えてくれた。

 台風の日に、お休みにならないことを残念がる我が子の声に、私も台風のお休みが大好きだったな、と懐かしく思い出した。暇な時間がいっぱいあって、父と一緒にいられるからには、楽しいことが起こるに違いないと信じていたからだ。

 一緒に過ごす時間の少ない父を、子どもたちが大好きでいられたのは、母がいつも、父の良い話をし、おそらく父には、子どもたちの、良い話ばかりをしていたからだろう。サンタさんは、「お父さん」だったのだが、そう思わせてくれていたのは「お母さん」だったのだ。

(金武育子、沖縄発達支援研究センター代表)

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