岸田首相「原発の新増設」を明言 福島原発事故の反省どこに?

岸田政権が「安倍国葬」を強行しようとするのはなぜか。旧統一教会や日本会議、限られた資本家などが安倍元首相に求めてきた社会に、日本が突き進むことを正当化する儀式にしたいのではないか。それを裏付ける動きの一つが、8月24日に岸田首相が表明したエネルギー政策の基本方針の転換である。国葬と同様の唐突な表明だった。ウクライナ問題に伴うエネルギー危機を理由に、次世代原発の開発・建設を検討する方針を打ち出したのだ。(和歌山信愛女子短大副学長 伊藤宏)

岸田首相が原発の新増設を表明したのは、首相官邸で開かれた脱炭素社会の実現に向けた「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」の席だった。同会議の発足時の担当大臣は萩生田光一経産相(当時)で、「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革」を実行するために、今年7月に第1回会議が開催された。そして第2回会議で、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に対して、岸田首相は「年末に具体的な結論が出るように検討を加速してほしい」と指示したのだった。

記者会見に臨む岸田首相=首相官邸HPより

福島第一原発事故の重大さを踏まえて、これまで政府は原発の新増設や建て替え(リプレース)の議論には踏み込まなかった。長期政権を維持した安倍政権ですら、言及できなかったことである。昨年10月に策定された国のエネルギー基本計画には、原発については「安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」と明記されていた。

それを岸田首相は、政府の一つの会議に過ぎない「GX実行会議」の提言に対して、十分な検討をした形跡もない状態から、ウクライナによる電力逼迫などを理由に、突然従来の方針を覆したのだ。

それだけではなく、東京電力・柏崎刈羽原発など7基の来年夏以降の再稼働を目指すという。また、従来の40年から60年に延長可能とされた原発の運転期間を、さらに延長することも検討するというのだ。脱炭素社会の実現と電力の安定供給を根拠に、原発利用を進める姿勢を鮮明にしたことになる。国葬と同様に、納得のいく議論がされないままに、岸田首相は原発回帰に向けた舵を切ったわけだ。

■政権維持へ封印

一方で、原発回帰が岸田首相にとって既定路線であったこともまた事実である。昨年9月の自民党総裁選で、岸田首相は核燃料サイクル政策の維持をはじめとした原発推進策を主張していた。自らが首相となるために主張したことを、今度は政権維持のために参院選まで封印してきた。それを、ウクライナ侵略に乗じて一気に実現しようとしているわけだ。何とも主権者をバカにした対応ではないか。

それだけではない。15日には経産省が発電所の新規建設を促すための支援策を導入する方針を打ち出した。対象には原発の新増設も含まれている。既存の発電所を維持するための支援策は既にあるが、電気代を支払う消費者が支える仕組みだ。原発の新増設やリプレースが正式に政府方針となったら、最終的に消費者が建設費などを負担することになるのだ。

事故食後の福島第一原発=東京電力のHPより

原子力政策には積み残し、先送りの課題が山のようにある。運転で生み出された「核のごみ」の処理処分は未解決のまま。既に破綻している核燃料サイクルに固執し、建設が進められている青森県六ケ所村の再処理工場も完成のめどが立っていない。破局的な事故を起こした福島第一原発の処理は、全く見通しが立っていない。私たちは既に膨大なツケを負い、巨額の税金がそれらに投入され続けている。原発回帰の政策は、そのツケをさらに膨らませるばかりか、福島第一原発事故の教訓を踏みにじり、新たなリスクを将来にわたって抱え込むことに他ならない。

日本国憲法を体現し、日本が平和国家として進むべき道を世界に示した中村哲医師のような人物ではなく、憲法と議会制民主主義を踏みにじるような行為を繰り返した人物を国葬にする。史上最悪の事故を起こしながら、その教訓を置き去りにして原発回帰に突き進む。そのような政権を存続させるような愚か者に、私たちはなりたくない。

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