ギャンブル依存の母に代わり、虫が這う部屋で弟の世話…少女は運命を呪った 「ヤングケアラー」の実態

ヤングケアラーとして過ごした10代を「孤独だった」と振り返るリサ=福井県福井市

 10歳下の弟のおむつを替え、ミルクを作る。ごみだらけの部屋に虫が這(は)う。母親はきょうもパチンコで、遅くまで帰らない-。十数年前、小学校の高学年だった20代のリサ(仮名)は、親の代わりに弟を世話する「ヤングケアラー」だった。

 3歳の時に両親が離婚。県外から母の地元福井県に引っ越した。母はギャンブルに依存し、しょっちゅう家を空けた。まともに働いた姿を見たことがない。リサは、後に生まれた弟2人の母親代わりとして身の回りの世話を担った。

 中学生になっても状況は変わらなかった。学校から帰宅すると、保育園に預けた下の弟を自転車で迎えに行き、手をつないで夕暮れの中を歩いた。作りたての晩ご飯のにおいが近所から漂う。「普通の家庭がうらやましかった」。手料理を食べた記憶はなく、いつもレトルト食品だった。

 当時は「健康保険にすら入っていなかったと思う」。高熱が出ても、部活動で足首をねんざしても、病院に行かなかった。母は下の弟を自宅で産んだ。「訳も分からず、出てくる頭を私が引っ張った」。リサはネグレクト(育児放棄)の犠牲者でもあった。

 抵抗しなかったわけではない。中学校に上がるころ、荷物をまとめて家出した。国道8号の陸橋を歩いているところを警察に保護され、家に引き戻された。「逃げても解決しないことは分かっていた。代わりは誰もいなかったんだから」。運命を呪いながら、弟の世話を続けた。

 孤立無援の中、県立高校に進学した。1年生のある日、事態が一変する。どこで情報をつかんだのか、児童相談所職員が一家の元を訪れた。弟2人を児童養護施設に入所させることが決まった。

 「大丈夫、大丈夫やから」。児相の事務所で、小学校に上がるかどうかの下の弟をなだめ続けた。守ってやれなかった-。無念さがこみ上げ、涙が止まらなかった。

 間もなく高校を辞め、母のいる家を出て飲食店で働き始めた。「一人で生きよう」。ヤングケアラーの日々が終わりを迎えた。

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 家事や家族の世話を日常的にしている子ども「ヤングケアラー」。中高生を対象にした福井県の調査で少なくとも1クラスに1人から2人いる結果が出ている。福井県内の実態や支援の動きを紹介し、「声なきSOS」に耳を傾ける。

⇒小学生ケアラー15人に1人、厚労省調査

 ヤングケアラー 年齢に見合った手伝いの範囲を超え、本来は大人が担うべき家事や家族の世話を日常的にしている子ども。法令上の定義はないが一般的に18歳未満を指す。病気や障害がある家族の介護のほか、幼いきょうだいの世話、ギャンブル問題を抱える家族の対応、家計を支えるアルバイトなど負担は多岐にわたる。学業に支障が出たり、健康状態に影響したりすることが懸念される。表面化しづらく、孤立する傾向が強い。

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